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@teihakutou
2025年7月3日

別れを告げない
ハン・ガン,
斎藤真理子
読み終わった
p.122
「波紋のように明るく体全体に広がってゆくぬくもりの中で、夢の中のような状態でまたも考える。水だけでなく、風や海流も循環しているのではないか。この島だけでなく、ずっと前に遠いところで降った雪片たちも、あの雲の中で再び凝結することがあるのではないか。五歳の私がK市で初雪に向かって手を差し伸べ、三十歳の私がソウルの川沿いを自転車で走りながらにわか雨に濡れていたとき、七十年前にこの島の学校のグラウンドで何百人もの子供たち、女たち、老人たちの顔が雪におおわれて見分けがつかなくなっていたとき、めんどりやひよこが翼を広げて羽ばたく鳥小屋に泥水が激しく押し寄せ、きらきら光る真鍮のポンプに雨粒が跳ね返ったとき、それらの水滴と砕け散る雪の結晶と血の滲んだ氷とが同じものでなかったはずが、今、私の体に降りかかっている雪がそれらでないと、いえるはずがない。」

