
辻井凌
@nega9_clecle
2025年7月6日

この村にとどまる
マルコ・バルツァーノ,
関口英子
読み終わった
感想
ズシンとくるおもしろさ。まぎれもなく傑作だ。権力の狭間で消えゆく村での日々を自分の前から消えた娘に向けた手紙という形で書きつづられた物語は、無情という言葉では語り尽くせない静かな残酷さがある。そして「言葉で語らねば残せないものがある」という当たり前のことと、「それでも言葉は無力」という現実の二つを読者に思い知らせる。
マルコ・バルツァーノの本は、これ以外にまだ翻訳されていない。次なる作品の翻訳が待ち遠しい。今回の関口英子の翻訳は、本当に素晴らしいものだった。
舞台となった南チロルは、ずっと興味があった地域だ。イタリアでありながらドイツ語圏。僕がトルコに惹かれたのは、立ち位置の「あいまいさ」だったのだが、南チロルにもどこか白黒つけらない「あいまいさ」がただよう。そこが魅力でもあるが、それによって翻弄されて痛みを覚えた歴史があることは、興味を持つ者として覚えておかねばならない。
話の後半に出てくる帽子をかぶった男がすごく気になった。話が通じないわけでもない、村を失う者のことも理解しているようだ。でも、本当のところでは通じ合えない。僕は理屈っぽいし、理性を大事にしているが、そのような小市民が行き着く先が彼なのではと思い、他人事に思えなかった。

