この村にとどまる

61件の記録
- 辻井凌@nega9_clecle2025年7月6日読み終わった感想ズシンとくるおもしろさ。まぎれもなく傑作だ。権力の狭間で消えゆく村での日々を自分の前から消えた娘に向けた手紙という形で書きつづられた物語は、無情という言葉では語り尽くせない静かな残酷さがある。そして「言葉で語らねば残せないものがある」という当たり前のことと、「それでも言葉は無力」という現実の二つを読者に思い知らせる。 マルコ・バルツァーノの本は、これ以外にまだ翻訳されていない。次なる作品の翻訳が待ち遠しい。今回の関口英子の翻訳は、本当に素晴らしいものだった。 舞台となった南チロルは、ずっと興味があった地域だ。イタリアでありながらドイツ語圏。僕がトルコに惹かれたのは、立ち位置の「あいまいさ」だったのだが、南チロルにもどこか白黒つけらない「あいまいさ」がただよう。そこが魅力でもあるが、それによって翻弄されて痛みを覚えた歴史があることは、興味を持つ者として覚えておかねばならない。 話の後半に出てくる帽子をかぶった男がすごく気になった。話が通じないわけでもない、村を失う者のことも理解しているようだ。でも、本当のところでは通じ合えない。僕は理屈っぽいし、理性を大事にしているが、そのような小市民が行き着く先が彼なのではと思い、他人事に思えなかった。
- 木村久佳@kuCCakimura2025年6月5日読み終わった最近、ChatGPTが断定でしゃべってくれないことに違和感を感じています。例えば「こういう習慣って他の国にもあるのかな?」といった質問に、明確な国の回答はせず「あると思うよ」とか「文化によって違うんじゃないかな?」みたいな答えが多くなりました。これは私専用にカスタマイズされたものなのか、それとも断定的な物言いをしない日本人特有の性質を照らしてのものなのか。どちらにしてもとても困っており、わざわざ「もっと断定的に」とか「具体的な国を挙げて」とか言わなくちゃいけないことに手間を感じざるを得ません。流行り始めたばかりのAIですが、ChatGPTには2歩3歩、もしくは10歩ほどの後退を感じております。
- โยโกะ@yookoom2025年6月4日読み終わった苦悩というのはね、どん底まで落ちる必要があるの。あなたが味わっているよりももっと底までね。こんな命、野良犬にでもくれてやりたいと思うまで落ちて初めて、心の平穏を見出せるんだと思う。(p101) あなたの失踪というひどく忌まわしい苦悩でさえも、あなたの父親と一緒に向き合ってきたお蔭で、こんな人生、いっそ野良犬にくれてしまえと思うほどの敗北感は味わわずに済んだのですから。(p223) 悔やむことがないと言えば嘘になりますが、私はずっとそうやって生きてきたのですから。突如として、なにかを手放さなければならなくなる。物を燃やし、破き、遠くに追いやる。私にとってはそれが、正気を失わずにいるための道なのだと思います。(p229)
- マヤ@mayaya_20252025年5月3日読み終わった感想読み始める前に表紙の写真から何があったかを想像してしまって、読んだら泣いてしまうんじゃないかと思ったのだけど、起こる出来事がことごとく自分の想像できる範囲を超えていて涙すら出ずに呆然としてしまった。 人間には大きく分けて定住型と移動型の2タイプがいるのだと、以前誰かが言っていた。 わたしはきっと移動型だな。 この村のような状況で選択するならきっと出ていく。 でも、そこに「とどまる」人たちがいることもわかる。 どの道が正解ということではなくて、何を選ぶかということだけ。 きっと、どちらを選んでも後悔は残る。
- エマ子@emma-05082025年4月21日読み終わったイタリアとドイツ、強国の狭間で翻弄され続けるチロルの村。 そこに暮らす一人の女性の物語。言語、職、子供、暮らす場所、日常をかたち作るものが奪われる。その苦しみが娘への手紙という形を通して淡々と語られる。 言葉は無力で、村がダムの底に沈むのを止められなかった。だけど言葉が彼女の人生を支え続けた。 最後まで読むとこの表紙の残酷さがよくわかる。 「すべてが取っ組み合いの闘いであり、敗北が宿命づけられているときにでも身を投じられる者だけが勇者なのでした」 憤りを内包していくような主人公とは対照的な夫の姿も心に残ります。
- 芙柚@mint_2025年4月20日読み終わった「戦争によって引き起こされる災難も、つねに死と背中合わせの現状も、すべて神のご意志だと信じられるなんて、なんとおめでたいことだろうと思っていました。私には、神なんて存在しないほうがいいという証明にしか思えませんでした。」(p.150) 戦争が、権力者が、社会の発展が、何を犠牲にしてきたか。望むなにもかもが悉く否定されたとき、「神は乗り越えられる試練しか与えない」という言葉が、いかに残酷な言葉なのか。 いつか、クロン村に行ってみよう。そのときは、スマホを構えず、ただ、エーリヒとトリーナに、そこにあって、そして奪われたたくさんの意思に、思いを馳せることが出来たら良い。
- nekomurice@nekomurice1232025年4月16日読み終わった生き別れた娘に静かに語りかける口調とは裏腹に、戦争の残酷さがひしひしと綴られています。戦争を生き延びたのに更なる悲劇。この本を読んだら鐘楼の前で、私は写真なんて撮れないと思いました。
- りら@lilas_lilacs2025年3月28日また読みたい静謐な文章がとにかく美しくて素晴らしくて……。ファシズムに母語を奪われ、ナチズムに村人を分断され、ダム建設によって村は水底へと沈む。娘とも生き別れた女性が綴る過酷な人生。抑制された文章から、忘れられた歴史が静かに立ち上がる様に圧倒された