

辻井凌
@nega9_clecle
つじーと呼ばれます。読書とサッカーとラジオが大好きな書評家・文筆家。読むのも書くのも話すのも好き。歴史からあれこれ考えて読むタイプです。
- 2025年7月12日中華料理と日本人岩間一弘読み終わった感想日本で中華料理がどのように受け入れられ、広がり、定番となっていったか。それを「帝国主義」から読み解いていく。本当におもしろく、知的興奮を感じながらページをめくった。日本の中華料理は、本場の中国料理とは違う。どうして違いが生じたのかも、各料理ごとに明かされる。 帝国主義は、帝国がなくなってからも続くものだ。「美味しい」や「なつかしい」という気持ちの奥底、僕らの無意識には何が眠っているのか。料理があぶり出す「何か」が本当に興味深い。「遺産」と「歴史」は違うということは、過去と現在を結びつけるときに用心しないといけない。 満洲を中華と切り離す戦前の動きや、戦後に満洲から引き揚げた人々の動きが、今の中華料理につながっている。日本人のことを考えると、結局みな満洲に行き着くのではないか。 北海道民として、ジンギスカンと帝国主義の関わりは知っておかなければいけない話だった。ベル食品や松尾ジンギスカンも登場する。ラーメンが札幌名物になったきっかけも、開拓の街でありながら“お上が作った街”でもある札幌らしい成り立ちである。
- 2025年7月11日1945 最後の秘密三浦英之読み終わった感想太平洋戦争時の知られざるエピソードを、数々の骨太なノンフィクションを手がけてきた新聞記者が、自らの取材の記憶とともに掘り起こした。どの話も目新しく、心を震わせる言葉が綴られている。特に印象的だったのは、マダガスカルを攻撃した日本人の話や原爆疎開を決断した知られざる新潟県知事の話だ。 三浦さんが描く、あの戦争を生きた人々の物語は、現代を生きる自分に、前を向いて胸を張って生きる勇気を与えてくれる。そこには、なぜか不思議な生命力や力強さが宿っている。彼が以前に著した『五色の虹』にも、同じような力を感じた。 僕が何度も読み返す一冊が『五色の虹』だ。本書に登場する先川祐次のエピソードは、『五色の虹』のアナザーストーリーともいえる内容で、続編を読んでいるかのようでたまらなかった。「知ることは傷つくことだ。傷つくことは知ることだ」という、僕が大好きな言葉がどんな状況で語られたのかも描かれており、胸が熱くなった。
- 2025年7月6日この村にとどまるマルコ・バルツァーノ,関口英子読み終わった感想ズシンとくるおもしろさ。まぎれもなく傑作だ。権力の狭間で消えゆく村での日々を自分の前から消えた娘に向けた手紙という形で書きつづられた物語は、無情という言葉では語り尽くせない静かな残酷さがある。そして「言葉で語らねば残せないものがある」という当たり前のことと、「それでも言葉は無力」という現実の二つを読者に思い知らせる。 マルコ・バルツァーノの本は、これ以外にまだ翻訳されていない。次なる作品の翻訳が待ち遠しい。今回の関口英子の翻訳は、本当に素晴らしいものだった。 舞台となった南チロルは、ずっと興味があった地域だ。イタリアでありながらドイツ語圏。僕がトルコに惹かれたのは、立ち位置の「あいまいさ」だったのだが、南チロルにもどこか白黒つけらない「あいまいさ」がただよう。そこが魅力でもあるが、それによって翻弄されて痛みを覚えた歴史があることは、興味を持つ者として覚えておかねばならない。 話の後半に出てくる帽子をかぶった男がすごく気になった。話が通じないわけでもない、村を失う者のことも理解しているようだ。でも、本当のところでは通じ合えない。僕は理屈っぽいし、理性を大事にしているが、そのような小市民が行き着く先が彼なのではと思い、他人事に思えなかった。
- 2025年6月29日読み終わった感想藤村忠寿は、北海道民にとっての「宇宙人」である。道民が当たり前だと思っていることに徹底的に「水を差しながら」エンタメに昇華する。これこそ彼が結果としてやってきたことではないか。 しかし、往々にして道民の心を動かすのは道民自身ではなくて、こうした「宇宙人」なのだ。日本ハムファイターズの監督である新庄もそうだろう。 1つ1つのエピソードや例え話が、どれもスッと入ってくる。「少年よ、大志を抱け」の「大志」は、アバウトなところが良いという話は、なるほどとうならされた。目標じゃなくて大志だと、目の前に立ちふさがるのではなく、目の前がパーッと広がる。素敵な発想だ。 萩本欽一こと欽ちゃんと会食したエピソードもおもしろかった。欽ちゃんは『水曜どうでしょう』を見て「テレビのことを本当に好きな人が作った番組」だと思い、会いたがったそうだ。いったい番組のどこにその要素を感じたのは非常に気になる。
- 2025年6月21日日本政治思想史原武史読み終わった感想「政治」思想といっても、結局は日本人が何を無意識に考えて生きてきているのかを知ることにつながるのが政治思想史だ。この本を起点に、自分の好きなジャンルを考えることは間違いなく可能である。サッカーでもアイドルでも、日本が関わればこの本が提示する切り口は役に立つ。 思想は「頭の中」や「言葉」だけの話ではない。鉄道などを通した時間支配や、空地の活用と人々の奉仕を組み合わせた空間支配、身近な日常や身体も思想として組み込まれていることが分かる。だから政治思想は僕らにとっても近しい存在なのだ。 僕は思想や研究の中身以上に、その「切り口」が気になる。だから著者の趣味である鉄道を研究に絡めた発想もそうだし、今や否定されている部分も多い人物だが、丸山眞男や司馬遼太郎の「問いの立て方」にも強く関心があるのだと思う。
- 2025年6月12日東京裏返し 都心・再開発編吉見俊哉読み終わった感想読むと街歩きがしたくなる。表面をなぞるだけじゃ、東京は、自分の住む街は、わからない。著者は特に下り道に注目している。早々歩きがちな下り道に目をこらしていくと新たな価値が発見できる。こういう本を読むと、住んでいるときにもっと東京を歩き回ればよかったと後悔してしまう。 軍都(軍隊の街)としての東京に着目している。軍事都市はいつの時代も調べるとおもしろいが、近代日本の軍都は現代の都市と地続きにあって余計に興味深い。日本全国の都市と軍隊の関係をもっと知りたくなる。 著者が街歩きで言及していた話題で、他に興味をそそられたのがプリンスホテルと堤康次郎の話だ。強引な土地の買い占めと開発で、西武のブランドを上に押し上げた彼の手法は『ミカドの肖像』や辻井喬の本で深く掘ってみたい話だ。
- 2025年6月4日最終列車原武史読み終わった感想関連づけのスペシャリストだ。本題の鉄道でも、専門の政治思想史でもない、違うジャンルの本や小説から鉄道に結びつけていく。発想の広がり実に楽しみだ。こうやって自分の好きなものに何事も結びつけていく力は才能だし、仕事につなげているのもすごい。 日本全国、世界も網羅し、日常に溶け込んでいる鉄道だからこそできることかもしれない。自分の関心事を他のものと結びつける「越境的発想」の先駆者として著書を楽しみにしたい人だ。自分もサッカーと何か結びつけるとき際の発想のヒントになる。
- 2025年5月31日読み終わった感想自身の研究のあり方を「楕円」に例えているのがおもしろい。楕円には中心が2つある。著者にとって1つは自身の中でずっと変わらない根本的な関心事で、もう1つは仕事など外的な要因でもたらされるものだ。これらが重なりあって楕円の状態になる。自分の興味関心ごとを振り返るのに、この楕円の視点は使えそうだ。 以前舞台を見たとき「サッカーみたいだ」と思ったことがある。身体を通して他者を発見し、自己を発見し、ドラマが展開するにつれて関係性が内側から崩されていく。身体を通した関係性の構築という点で舞台とサッカーは似ている。自分がもっと舞台を見てみたいと関心を持つのも納得である。 著者の「越境する」思考やものを見る切り口は、自分の中で越境をテーマとしてる僕にとっても非常に気になるものだ。これから吉見俊哉の本を読む人には最適なガイドブックになる。
- 2025年5月30日めんどくさがりなきみのための文章教室はやみねかおる読み終わった感想子供向けと見せかけて大人にもしっかり刺さる。文章の書き方ひとつレクチャーするのでも、はやみねかおるははやみねかおるだった。実用書でもはやみね節を堪能できて往年のファンはうれしい限りだ。 「文章を書くため」の本だが、言葉を学ぶ方法は読むだけではない。ラジオやドラマ・映画を聞くことも立派な学習だ。記号や図形など言葉じゃない何かで気持ちを書いてから、文章を書いてみるという技術がおもしろい。発想の転換だ。 本は楽しいから読む。何かのために読むものではない。という話には共感しかない。大人になるはみんなして「役に立つから」読書が好きになる。違うんだ。読書は楽しいからするんだ。
- 2025年5月22日星の王子さまサン=テグジュペリ,アントアーヌ・ド・サン・テグジュペリ,河野万里子読み終わった感想「いちばんたいせつなことは、目に見えない」 読んだことがなくてもどこかで聞いたことのあるこのセリフは、あんなシーンで出てきたのかと感動してしまった。要所要所に出てくる言葉の数々がとにかく素敵だ。やさしいけど、ちょっぴりさみしくなる物語である。 素敵といえば、作者によるまえがきもいい。親友に捧げた献辞は、言い訳ぽくもあるがユーモアと親友への愛に満ちたものになっている。こういった言葉たちを読めば、きっと訳し方も素晴らしいのだとわかる。 王子さまは、方々の星で様々な人々や生き物に会う。中でも僕が好きなのが王様だ。偉ぶってそうだが、身の丈も知っている。そんな王様とのやり取りは非常にコミカルだ。舞台で見たくなるシーンである。 ところで小説に出てくるトルコの独裁者とは誰のことだろう。ケマル・アタテュルクのことだろうか。サン=テグジュペリのトルコ観を知るヒントが隠れている。
- 2025年5月21日人間失格太宰治読み終わった感想この作品を読んで「どうしてこんなに自分の苦しみを太宰は分かってくれるの?」と思う人と、「よく分からない。終始退屈だ」と思う人がいるだろう。僕は後者寄りだ。でも人間や世間、生活に対して葉蔵が抱える違和感は共感できるので、退屈すぎるわけでもない。 自分には「葉蔵が語る」という視点が合ってなかった。彼になかなか入れ込めず魅力的に思えなかった。反面、はしがきとあとがきで第三者視点から書かれる葉蔵の姿は、立体的で生き生きと見えた。特にあとがきの最後の一文は秀逸だ。あの文によってこの物語に大きな救いが生まれた。 集英社文庫版には解説と、太宰の娘・太田静子による鑑賞文が収録されている。この2つがどちらも読みごたえがある。特に太田静子の鑑賞文は、この作品から読み取れる太宰の人間愛や父性が書かれた見事なものだ。太宰の自伝的作品と言われているが、太宰はもっと人間も自然も愛する人だと他の作品を読んで思った自分にとって、彼女の文章は救いになった。
- 2025年5月19日恋愛の哲学戸谷洋志読み終わった感想哲学は、自分がかかえる得体の知れない感情に違う面から光を当てる力を持つ。7人の賢者の言葉により、恋愛は相対化され、より多面的な姿を見せてくれる。著者の狙いが見事果たされた本だ。 説明がつかず居心地の悪い感情がわいたとき、きっとこの本を再び開くだろう。恋愛を切り口にした哲学者ガイドにもなっている。僕が気になったのは、サルトル、ポーヴォワール、レヴィナスだ。現代に近い哲学者の話は、思想全体が今を生きる自分に寄りそい、共感できるものである。 「はじめに」と「おわりに」で著者が恋愛を炎にたとえている。この文がまたいい。炎を果たす役割の表現が詩的であり、哲学を炎を扱う道具ととらえて恋愛の多様性を示す。真似したい! https://note.com/nega9clecle/n/n7dee2eaafff0
- 2025年5月17日最終列車原武史読み終わった買った
- 2025年5月15日内調岸俊光感想「内閣情報機構に見る日本型インテリジェンス」という副題にひかれた。インテリジェンスには情報や諜報の意味があり、スパイの世界も当てはまる。インテリジェンス!いい響き! スパイというと派手なイメージを連想するかもしれない。でも本書に書かれているのは内閣の下で行われる地道な情報分析の世界であり、どうにかして組織の役割や居場所を確保しようとする官僚たちの世界だ。 メディアの情報から世論を分析し、これといった学者に委託調査を依頼し見解を発表してもらう。国が暗に世論を動かすというと聞こえが悪いが、国側にも言い分が世論に伝わるように努力する義務があるとすれば、世論に働きかける情報機関は必要悪なのもしれない。 内調こと内閣調査室が活動はじめた当初は「反共」の思いが政府に強かった時代だ。だからこそ必要とされた。今を生きる僕には実感がないが、共産主義はそれほどまで脅威だったらしい。では反共がなくなった現在、内調が対抗しようとするのは何になるのだろう。 https://note.com/nega9clecle/n/n767b8782c017
- 2025年5月8日バチカン近現代史松本佐保感想近現代史を学んでいると「反共」が持つ力に驚かされる。1993年生まれの自分はソ連が崩壊したあとに生まれた。だから共産主義の脅威といわれてもピンとこない面がある。カトリックの総本山であるバチカンを動かしたのも「反共」の精神だ。ここでも反共!びっくりだ。 キリスト教と対立するものとしてイスラム教をイメージする人もいるかもしれないが、バチカンの考えは違う。イスラム教は考え方は違えども、神を信じる者として信用できる。本当の敵は無神論につながり得る共産主義だ。反共のためなら融和ができる。イスラム教とも手を組める。共産主義から当時の人々が何を感じたのか、何を不気味に思ったのか知りたい。 「反共」の必要性が薄れた今、バチカンは何を軸にして世界とつながっていくのだろうか。ローマ教皇を頂点とした組織が整っているからこそ、バチカンは世界に影響力を持ち、時には仲介者としての役割を担うことができる。次のコンクラーベが楽しみだ。
- 2025年5月7日
- 2025年5月4日めんどくさがりなきみのための文章教室はやみねかおる読み終わった
- 2025年5月1日彼女がそれも愛と呼ぶなら一木けい読み終わった感想愛に何を求めるのか。他者を求めるとはいったい何なのか。自分に正直に生きるとは何か。3人の恋人と一人娘と暮らす家族を中心に登場人物の言葉が常に読者に問いかけてくる。異なる価値観の言葉に出会うことで、かえって物事の本質が見えてくる。 「恋愛とは?」、「好きとは?」、「嫉妬とは?」、「執着とは?」を考えてしまう作品だ。 https://note.com/nega9clecle/n/n5f5beca2db53
- 2025年5月1日バチカン近現代史松本佐保読み終わった
- 2025年4月29日
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