のーとみ
@notomi
2025年3月6日

本の背骨が最後に残る
斜線堂有紀
かつて読んだ
全編大傑作。ほとんど異形コレクションで読んでたのに、全部ゾクゾクしました。書き下ろしがまた。昔書いた感想を見つけたので貼っておきます。
斜線堂有紀「本の背骨が最後に残る」、ようやく読んだ。書き下ろしの「本は背骨が最初に形成る」以外の六編は全部、井上雅彦編の「異形コレクション」で発表されたものだったので、「ギフト」掲載の「痛姫婚姻譚」以外は読んでいたものだから、つい購入を後回しにしてたのだった。しかし、読んでるからといって買わない選択肢は無い。これだけのクオリティと面白さと残酷さと美しさを凝縮したような短編集は、そうそう出るものではないのだ。「回樹」も今年出たSF短編集のベスト級だったけど、この本も今年のホラー小説、幻想小説のベスト級。全部がとにかく痛くて狂っていて、でもロジカルでシスターフッド的でもあって、斜線堂有紀の想像力と筆力が爆発してる。
紙の本が世界から失われて、「本」と呼ばれる存在が一人一冊、物語を宿している世界に、一人で十冊の本を宿して、その罰として両眼を焼かれた十という女性の戦いを描く表題作なんて、もはやホラーも幻想小説も飛び越えて、なんだかもうただ面白い。なんせテーマは「面白くない物語は焼かれる」という話なのだ。最後の書き下ろし「本は背骨が最初に形成る」は、その前日譚にして、別の異形の本が生まれる物語。もはやこれ、山尾悠子と高橋葉介が合体したみたいな世界で、この二編だけでも、この本を読む価値は十分にある。
で、人は死ぬと、生前指定していた動物に転化して行き続けるという村で起こる事件を描く「死して屍知る者無し」、ケッチャムばりの残虐描写で脱出と欲望が表裏一体になった戦う女性を描く「ドッペルイェーガー」、手術などの患者の痛みを全て引き受けて踊る「痛姫」の戦いを描いた「痛姫婚姻譚」、ひたすら雨に降られ続けて体がふやけ、裂けていく異常気象に見舞われた世界での愛と表現についての物語「『金魚姫の物語』」、19世紀の精神病治療の異常さを舞台に残酷描写を存分に描きつつ、さらに狂った世界の物語に仕立てる「デウス・エクス・セラピー」と、とにかく異様な切なさを湛えた女性たちの救われない戦いが延々と続く。
ひとつも誰も救われないけど、悲劇でもないのは、描かれているのが、人間の悪意ではなく、世界の悪意と残酷さに屈しなかった人たちの物語だからだろう。このモヤっとしつつ心地いい読後感が斜線堂有紀の真骨頂だと思う。変で怖くて気持ち悪くて、でもカッコよくて面白い小説たち。これと「回樹」が2023年の大収穫だよー。あと、彼女は特殊設定の短編ミステリもいっぱい書いてるから、それも本にまとまらないかな。
余談
BiSHの最後のツアーでやってたコントが、メンバーがそれぞれ楽曲になって言い争って次にどの曲をやるか決めるというネタで、脚本はモモコグミカンパニー。ものすごく面白かったし、どの曲を誰がやるかも公演ごとに変えて、その都度台本も変える凝った構成。そのモモコグミカンパニーは、ちょうど「本の背骨が最後に残る」が発表された頃に斜線堂有紀の本の帯の推薦コメント書いてて、これ読んでたから出てきたネタなのかもなあと思った。


