のーとみ "シャーロック・ホームズの凱旋" 2025年3月6日

のーとみ
@notomi
2025年3月6日
シャーロック・ホームズの凱旋
読まねばと思いつつ、ミステリではないであろう、もっと言えばホームズ・パスティーシュでも多分ない、文学作品としてのホームズ小説を読むのは面倒くさいなー、と思ってスルーしていた森見登美彦「シャーロック・ホームズの凱旋」が、Kindleのアンリミに来てたので、ちょうど法月綸太郎の「法月綸太郎の消息」で、ホームズというよりドイルの謎を解く小説を読んだばかりだしと読み始めたら、まあ、大方予想通りの物語だったけれど、京都とロンドンの両方を異世界として描きながら、ちゃんと街の物語にする森見登美彦らしさが、大技小技含めて楽しく、かなり面白く読んでしまった。これをメタではなく、入れ子として書いたことは、とても素晴らしいし、ある種、異世界モノ批判というか、異世界モノの何がつまらないのかについての小説にもなってて、ラノベと文学の境界線を歩いてきた作者だからこその達成だとも思った。 その上で、ミステリと文学の間にある暗い溝をしっかりと見据えて、1秒もミステリ的なことを書かずに、でも名探偵論にはなってる物語を構築して、ちゃんと面白い。ミステリ側から見ると、既にその先というか、特殊設定ミステリの異様な進化が、とっくに、こういう論点を超えていってしまってたりもするのだけど、そういう、もはやロジックの極北みたいなエンターテインメントになった本格ミステリを、もう一度、文学として再構築しようという試みは意外に誰も手をつけていなかったように思う。それを、後期クイーン問題をきっかけにミステリが書けなくなっていた法月綸太郎と同じような理由でスランプに陥ったホームズの物語として書いていて、その本格ミステリが孕む矛盾が「小説の問題」でもある、ということから出発してるから、やっぱり面白いのだった。しかも、そのきっかけは作者自身のスランプだったというから、なんかもう小説って厄介なものなのだ。 モリアーティとホームズがお互いのスランプの傷を舐め合い、アイリーン・アドラーとメアリ・ワトソンが新しい名探偵コンビとして活躍するなどの登場人物の使い方も上手いし、ビクトリア朝京都という舞台設定にきちんと必然があるのもよく出来てるから、森見登美彦の小説の中でも、結構すんなり世界に入りやすいんじゃないか。というか、世界に入り込んでもらわないと効かない仕掛けだらけの小説だから、そこは気を配ったのだと思う。京都に行きたくなるのは、森見登美彦作品を読んだ後には、まあだいたい思うから、そこもブレずによく書けてるのだろう。これが十万部突破というのは素晴らしいけど、これだけやって、ホームズ引っ張り出して、ドイルと心霊術の関係にも言及しながら、たった10万部かい、という気がしないでもない。みんな、小説読もうよ。
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