内田紗世 "友だちになるかは迷った" 2025年7月13日

内田紗世
内田紗世
@uchidasayo
2025年7月13日
友だちになるかは迷った
友だちになるかは迷った
垂井真,
稲荷直史,
葉山莉子
再読。 p.43 葉山莉子 六月二十一日(金)  ブルーモーメントだ、と君がいった。群青色のあと、夜の寸前に訪れるほんのわずかな濃紺。君といるとわたしはそれを見逃してしまう。見逃したことも君は気づかない。わたしを乗せた君のバンが川沿いの夏至の夜を走る。  特急券を握りしめて、いつもと反対電車に飛び乗った。君の立ち姿を見たとき、わたしはようやくこの意味に気づいた。  わたしはずっと君が憎かった。わたしを見て笑う君が憎かった。もっと、という言葉を発する時期をもうとうに通り越してしまった。もうおとずれない、君との朝が昼が夜が、もっとほしかった。飽きるくらいの日常が、もっとほしかった。恋しくて、以前の君もいまの君もずっと憎んでいる。  深い黒に沈む山。君が星を指さして、わたしの指を一本一本数える。吸い込んだ煙には緑が放出する酸素が混じる。小さな暖炉で体を暖めると、君の呼吸にあわせて炎が揺れる。君が触れた髪がその指の柔らかさを受け止める。わたしが君の稜線をなぞれば、もっとも短い夜が明けて、君はわたしを眠りつかせる。発熱する君の体温でまつげの光が蒸発した。 誰かここの文章で一曲作って欲しい。
読書のSNS&記録アプリ
hero-image
詳しく見る
©fuzkue 2025, All rights reserved