
柿内正午
@kakisiesta
2025年2月1日

霊的最前線に立て!
横山茂雄,
武田崇元
読んでる
武田 (…)そもそも政府が国民統合の拠点にしたろと思った神社に国民は徴兵逃れを祈願しとるんだよ。喜多村理子
『徴兵・戦争と民衆』(一九九九、吉川弘文館)によれば一八八五(明治十八)年正月の『山陰新聞』は、息子や婿が徴兵のくじ引きにはずれますようにというので、出雲大社に雨や雪をものともせず、お百度どころか、千度万度と祈願する群衆が日々絶えないことを報道している。
松下芳男『陸海軍騒動史』(一九五九、くろしお出版)によると、徴兵逃れにとくに応験ある神社は関東では山梨県にとくに多く、南都留郡鳴沢村の鳴沢魔王天神社、忍野の天狗社、南都留郡小立の浅間神社、船津の八王子神社などは、大正の頃までは徴兵検査の前後になると宮司は寝る暇もない状態だったというんだな
横山 それはすごい(笑)。
武田 喜多村前掲書は山陰地方の村々を丹念にフィールド調査して、徴兵検査が近づくと武運長久と言いながら実はムラぐるみで徴兵逃れ祈願のために山籠りする風習が日中戦争がはじまる頃までずっとあったことを報告している。
横山 建前と本音。
武田 だから日露戦争を機運として地域の神社を媒介にして天皇崇拝の国家観念が確成されたといった類の論があるけれども、実態はそうストレートに行ったわけではない。彼女の調査によれば、ムラによっては山籠りしたあと、代表が徴兵逃れにとくに応験があると言われた島取県伯耆町の上代神社や大山の大神山神社の奥宮である下山神社にまでわざわざお参りしている。興味深いのは上代神社の神さんの使いはシタグラさんという白狐なんや。下山神社もシタグラさんを祀っていて、徴兵逃れを祈願する者はこの狐をいただいて自宅に祀ったいうんやな。
横山 へーえ、そんな専門分化した(笑)狐があったの。
武田 このように神社や神祇信仰は、国家にとっては諸刃の刃になりうる。民衆的な公共スペースにもなり、反国家的な祈願や呪術の温床にもなる。
(p.250-251)
