
読書猫
@bookcat
2025年7月16日

軽いノリノリのイルカ
又吉直樹,
満島ひかり
読み終わった
(本文抜粋)
“「一人が刃物を持ってましてね、もう一人がバットですよ、でね、もう一人がおにぎりを食べてたんですよ」
「えっ?」
「おにぎり。こっちを睨みながら、それが怖くてね」
「怖いですか?」
「いや、断面から少し具が見えてましてね、どうやら高菜おにぎりだったんですよ」
「たかな?」
「学生だった自分からしたら高菜おにぎり食べてる不良がずいぶん大人に見えましてね」運転手は真剣な表情で話す。
「なんですか? その話」
「すみません」
(「溝の中透かし キレイな哀しみ
うつ熱生みし 泣かない歴史 かすかな望み」)”
”2年生のときに空を描く宿題があり、お昼からはじめたのですが、途中でお母さんと買い物に出かけたので、続きを描きはじめたときには空が赤くなっていました。絵には青い部分と赤い部分の空ができてしまいました。
その絵を見た担任の先生が、「時間の流れが描けています」とほめてくれたのです。意味はよくわかりませんでしたが、そんなほめられ方をしている生徒は誰もいなかったので、嬉しかったです。その絵は優秀作品として学校の廊下に貼りだされました。
それから僕は本当に見たものを描く必要はないのだと知りました。これからは感じたことを正直に描こうと思いました。
(「この木、キノコ食べた? ……ええ?! 食べた!! この木、キノコ」)“
”自分は蚕のようだ。私が書く文字は、蚕の糸だ。この自宅兼書斎の小さな部屋は蚕がつくる繭。この空間だけが自分の居場所で私は人知れず文字を吐きだす。蚕の糸で作られた着物が人々に賞賛されるとき、誰も蚕のことなど思い出さない。自分がやりたかったことはこんなことだっただろうか?
(「蚕のときに彷徨う 黒い目の迷路 黒い目の迷路 空よ、まさに樹との恋か?」)”


