
小萩海
@umiyoake
2025年7月21日

アイヌの世界に生きる
茅辺かのう
読み終わった
ずいぶん前から積んでいて、たまに読んでは、また置いて、出かける時にカバンに入れる本のうちの一冊に加わり、気が向いたら読む、と亀の速度で進めていた本を、ようやく読み終えた。いつ買ったのか覚えておらず、手にとってからおそらく年単位での時間が過ぎている。結局昨日と今日で一気に読んだ。長い年月の間にたくさん出し入れしたので、カバーの破れ目が広がってしまった。
この本は、「トキさん」という、明治末、もともとは入植者の子供として生まれたが、当時の過酷な生活状況から育てることができず、生後間も無くアイヌの家族に養子入ったひとりの女性の語りをもとに書かれている。彼女自身の人生、そして彼女をアイヌの娘として育てた義母の人生、失われゆくアイヌの土着の言葉や文化が、たくましい女性の目線で語られ、それを、外部の人間である著者の視点も絡めながら丁寧に聞き書きしたことが伝わる本で、これ一冊をもとに十分朝ドラを構成できそうな、濃厚な内容だった。
異文化に関する地盤が、急激にゆるんでいることを感じずにはいられないここ最近。日本で実際に起きた同化政策、偏見、それらに翻弄されながら生きてきた人たちの人生を知ることは、問いを深めていくのに重要だと感じる。
自分は、知識が浅く、時流に心が簡単にゆらぎ、他の人の意見に対しても直感的に反応したりして、意見を深めていくことがどんどん苦手になっている(もともとそんなに得意でもない)。わりとそれでものほほんとやっていけたのだけれども、やっぱり粘り強く考えたり他者と(ほどほどに)交わり労わりあいながら、この弱さに向き合いたい。どうあれ、この荒波の中で、生きていかねばならないので。
不安定な時代において、大きな組織に比べればはるかに弱い個人が、どう生きていくかのヒントとなりえる本でもあると思います。




