
読んだ本と聞いた本
@20250628
2025年7月21日

恐るべき緑 (エクス・リブリス)
ベンハミン・ラバトゥッツ,
松本健二
読み終わった
32頁
「フリッツ・ハーバーが死んだときに彼の手元にあったわずかな持ち物のなかに、亡き妻に宛てて書かれた一通の手紙があった。そのなかで彼は耐えがたい罪悪感を覚えていると打ち明けている。だがそれは、彼がかくも多くの人類の死に直接的、間接的に果たした役割のためではなく、空気から窒素を抽出する自らの方法が地球の自然の均衡をあまりに大きく狂わせてしまった結果、この世界の未来は人類ではなく植物のものになるのではないか、というのもわずか二、三十年で世界の人口が近代以前の水準にまで減少すれば、植物は人類が彼らに遺した過剰な養分を利用して野放図に成長し、地球全体に広がって、ついには地表を完全に覆い尽くし、その恐るべき緑の下であらゆる生命体の息の根を止めてしまうのではないかと恐れていたためであった。」