恐るべき緑 (エクス・リブリス)

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gato@wonderword2025年11月20日読み終わった短篇を読み進めるうち、円城塔より初期の宮内悠介寄りかな?いや、これゼーバルトだな。などと思っていたら、あとがきで参考文献に『土星の環』を挙げていてやっぱりかとしたり顔になった。私は『移民たち』に似てるなと思ったけど。 ずっと西洋中心に回っていたお話が最後はチリにフォーカスしていくところはとてもよかったのだけど、説明せずとも伝わっているよ、と言いたくなることが言葉にされており、全体のクールなトーンが最後に損なわれてしまったように感じた。メッセージを誤解されずに届けたい気持ちはわかるのですが。 評伝っぽくなっていく「シュヴァルツシルトの特異点」以降もいいんだけど、「プルシアン・ブルー」の圧縮された歴史の語り方が非常に好みだった。キアラン・カーソン『琥珀捕り』のすべてが死と戦争に繋がっていくバージョンみたいな。あと創作キャラだと思いこんでいたグロタンディークとかがみんな実在する数学者でびっくり。かなり興味が湧いた。
隅田川@202506282025年7月21日読み終わった32頁 「フリッツ・ハーバーが死んだときに彼の手元にあったわずかな持ち物のなかに、亡き妻に宛てて書かれた一通の手紙があった。そのなかで彼は耐えがたい罪悪感を覚えていると打ち明けている。だがそれは、彼がかくも多くの人類の死に直接的、間接的に果たした役割のためではなく、空気から窒素を抽出する自らの方法が地球の自然の均衡をあまりに大きく狂わせてしまった結果、この世界の未来は人類ではなく植物のものになるのではないか、というのもわずか二、三十年で世界の人口が近代以前の水準にまで減少すれば、植物は人類が彼らに遺した過剰な養分を利用して野放図に成長し、地球全体に広がって、ついには地表を完全に覆い尽くし、その恐るべき緑の下であらゆる生命体の息の根を止めてしまうのではないかと恐れていたためであった。」
鈴木宣尚| 本を拾う@honhiroi901252025年3月6日買った読み終わったまた読みたい実在する人物、物理学などベースにした短編集。最後まで読むと連作であることがわかる。科学と情動の描写にぐいぐい引き込まれる。思索に耽る余韻を残す巧さが光る。良い。


























