
saeko
@saekyh
2025年7月21日

となりの陰謀論
烏谷昌幸
「陰謀論を生み出し増殖させるのは、人間の中にある『この世界をシンプルに把握したい』という欲望と、何か大事なものが『奪われる』という感覚です。」
文芸評論家の三宅香帆さんがYouTubeで紹介されていたのがきっかけで知り、母校の教授の著作であることに気づいて興味を持ち購入。
日本社会における右派ポピュリズムの台頭が明らかとなった今こそ読むべき一冊だと感じた。
根拠の乏しい突拍子もない主張や、それらを盲信して過激な言動を繰り広げる人々を、反知性的だというレッテルを貼って一笑に付すことは簡単だ。しかしそれでは何も解決しない。彼らの根底にある不安、不満、そして剥奪感にしっかりと目を向けなければ、さらに分断が深まるだけだ。
本書では、政治的思想ではなく民衆の声をそのまま反映するポピュリズムがどのような形で育まれるのか、その中で陰謀論の果たす役割について、現代アメリカと近代ドイツを例として考察する。その社会構造について読んでいると、いまの日本社会にそのまま置き換えても理解することができ、ポピュリズム形成フォーマットの再現性の高さに慄然とする。
さらには全体主義や恐怖政治との親和性の高さにも言及されており、陰謀論は決して笑いごとではなく、民主主義の根幹を揺るがしかねない存在であると警鐘を鳴らす。
極右的思想や陰謀論に傾倒する人々を冷笑する人々もまた、リベラルな思想のバイアスで物事を見て判断しているにすぎない。特にSNSによって思想のエコーチェンバーに閉じ込められやすい現代においては、双方の対立関係を強調することがあまりにも簡単だ。
そんな状況下で、陰謀論による社会の暴走を防ぐためにはなにができるか。その明確な回答はまだないけれど、まずは陰謀論を過小評価しない、陰謀論を信じる人々の問題意識を矮小化しない、というのが第一歩であると気づかされる。
その先は対話をすればわかりあえる、などと単純なものではないけれど、一つ一つの流言飛語に真摯に向き合い、事実を明らかにして伝えていくこと。そして人々の問題意識を軽減できるような社会の仕組みをつくること。そういった地道な不断の努力に他ならないのだろう。





