
saeko
@saekyh
2025.07以降に読んだものと思ったことの記録
- 2025年11月24日
〆切は破り方が9割カレー沢薫ウケを狙いすぎてところどころ表現がくどいと感じたけど、声を出して笑ってしまうようなところもあり、自分もこんな面白い文章を書けるようになりたいと思った。 我ながらかなり事務作業が苦手な性質で、確定申告のような面倒な手続きを前にすると蕁麻疹が出るほどストレスを感じるのだが、漫画家のみなさんも「控除の書類を出すよりも高額な保険料を支払い続ける方が楽」といった理に反する感覚を持っているとわかって同じ穴の狢を見つけた気持ちになった。わたしだけじゃなかった。 〆切は破っているのではなく、世界一脆弱な材質でできているがゆえに気がついたら破れているもの、という発見が目から鱗。 - 2025年11月21日
私とは何かーー「個人」から「分人」へ平野啓一郎夏目漱石すら、本当にやりたいことを見つけたいのに見つけられないと悶々してたんだね…。 読み始めたときは、分人ってそんなに目新しいコンセプトじゃないかも?と思ってたけど、 本当の自分は幻想だったのだ!と思うと、こういうとき自分らしくいられない…という悩みもなくなるし、 たとえば人間関係がうまくいかないとき、「環境を変える」のではなく「分人の構成比率を変える」と捉えることで、「環境を変えたけど、本当の自分を見つけられない…」という煩悶から解放されるのかもと思った。 - 2025年11月19日
私たちはどう学んでいるのか鈴木宏昭学習における環境の重要性を説いた目から鱗の良書 ・能力は虚構である。「力」というメタファーを用いることで、内在性と安定性があるものと勘違いされているが、実際には文脈依存性があり、揺らぐものである。 ・知識は伝達しない。何かを教えれば知識が伝わるというのは勘違い。知識の性質は3つあり、さまざまな場所で活用できる「一般性」他の情報と繋がって体系をつくる「関係性」適切な場面で応用できる「場面応答性」である。このように知識を構成するためにら、言葉の伝達だけでは不充分。 ・「兆し」は真の正解ではない。a, b, cという条件を満たしていたらAが実現できるという考え方は間違い。a,b,cの原因を理解していなければならない。 ・創発的な学習は工場生産のようなプロセスではなく、弟子入りして日本舞踊を学ぶような、コンテキストにおける繰り返しの学びによって発生するもの。 - 2025年11月17日
筆者が高校生の頃の自分に向けて書いたとのことで、かなりやさしくひらいて書いてくれているのだけれども、それでも難しい。 哲学者というものはこうも抽象的なことについて延々と考えていてすごい。 でもウィトゲンシュタインというずっと気になっていた哲学者の思想への入門編としてはこの上ないわかりやすさなのではないか?と思う。 ウィトゲンシュタインは、「いまここ」の日常に根差した考え方をする哲学者だったのかなと思う。だから、今ここにないもの、ここにあることを証明できないものは議論の俎上にあがらない。世界は自分から始まり、自分が死ぬときに終わる。世界のどこかになにか見えない真実が隠されているということはなく、見えるものが真実だ。無が存在することを証明できないなら、存在について議論することは無意味。語りえないことについては、沈黙せよ!と、かなり実践的な考え方をしている哲学者なのかなと思った。 デカルトの方法的懐疑について、信じているものがなければ疑うことはできない、と論破しているのはなるほどと思わさせられた。 - 2025年11月16日
経済学レシピハジュン・チャン,黒輪篤嗣とっても読みやすくておもしろかった! 誰もが知っている食材の話から、華麗に経済学の話に展開し、ぼんやりと聞いたことはあるけれどよくわからない数々のトピックについての議論を展開してくれる、やさしい経済学エッセイ。 実はアフリカ大陸で生まれたというオクラの話から、自由貿易とは本当に自由なのか?という話へ。えびの養殖の話から、国家の経済を発展させるうえでの幼稚産業保護政策の話へ。ビーガンにも「他の客と平等に」鶏肉を提供するという航空会社の話から、経済と社会における平等と公平について考えたり、料理の味を引き立てるさりげない存在である唐辛子の話から、GDPの算出においては見えないものとされている女性ケア労働について考えたりと、身近なトピックから経済学についての知識を授け、社会のさまざまな課題について考えさせてくれる含蓄深い内容だった。 - 2025年11月14日
資本主義はなぜ限界なのか江原慶すごいわかりやすく書いてくれてる感じはしたけど…おれがバカだからか…正直よくわからなかった…! 大学時代に経済学の授業オールCだったからな… でもそもそもの経済学の誕生とか、古典派・ミクロ/マクロ・マルクス経済学までの歴史を大づかみに説明してくれていて、こういう初歩的な情報を知る機会はなかなかないから経済学初心者としてはありがたかったぜ わかった範囲でまとめると、 ・20世紀のバブル崩壊以降、日本を含む先進国は低成長の中で経済成長を追い求めている ・経済成長を求める企業活動により、環境問題が限界まで悪化している。また、資源を市場の外に求める略奪行為(=他国との戦争)も発生している ・実現し難い経済成長を追い求めるのをやめて、脱成長を実現するべきだ ・脱成長を実現する究極の体制は、利潤も成長も生まない脱成長コミュニズムだが、現在の資本主義からの突然以降は市場にも社会にも混乱を生むだろう ・そのため、過渡期としての脱成長至上主義を提案する。この体制においては、発生した利潤は公的資金として拠出するので、株式会社を主とする市場経済の競争を維持しながらも、成長を止めることができる ・この実現のためには、社会政策における利他の心が重要だ という感じか…? 感情論や筆者の主観的な主張というより、経済学のフレームワークに沿って合理的に説明されている感じが読みやすかった。 なんとなく成長はよいもの、コミュニズムは悪いもの、という固定観念があるが、必ずしもそうじゃないのでは?と価値観の変容を促してくれる一冊だと思った。 - 2025年11月10日
ようこそ、ヒュナム洞書店へファン・ボルム,牧野美加読書が好きで、人生のうち数年かを仕事に費やし、疲弊して、愛する本の世界に戻った筆者だからこそ書ける、優しい寄り添いの本。 好きなことを仕事にして自己実現すること、やりたいことを見つけること、成長のために階段をのぼりつづけること。働きながら生きるために必要だと教えられてきたことに疲れ果ててしまった人たちに、幸せとはなにか、いい人生とはなにか、をそっと諭すように教えてくれる物語。 肌寒い日に温かい飲み物を携えて大切に読みたい一冊。 - 2025年11月3日
大胆推理! ケンミン食のなぜ阿古真理まず装丁がいい。小ぶりなソフトカバーながら、表紙はしっかりと固く、カバーもざらざらとした凸凹のある質感で非常によいホールド感である。 そしてなにより川村淳平さんのイラストである。写実的でありながら水彩画ならではの繊細さを感じさせる色彩で描かれるあずきトースト、讃岐うどん、お好み焼き…見ているだけで幸せな気分になるようだ。 中身は軽い学術調査を織り交ぜたエッセイになっており、日本各地の食にまつわるさまざまな問いに対する筆者の推理が主である。 北海道からはじまって、東日本・西日本を辿り、沖縄に辿り着く章立ての中で、国内の食の多様性と、ちょっとした蘊蓄を学ぶことができ、日本のいろいろな食を楽しみたいという意欲が湧いてくる。 - 2025年11月3日
大竹裕子さん、なんて聡明な方なんだ! 1990年代の虐殺と紛争の傷跡がいまだ残るルワンダで、人々がどのように傷つき、苦しみ、そしてどう再生していくのか、というプロセスについて、参与観察による民俗誌調査を通して明らかにしている。 トラウマ体験をカウンセリングによって治療するというのは、西洋医学に基づく個人主義・普遍主義的な思想に基づく手段であり、非西洋社会にも等しく適用できるものではないという批判が目から鱗だった。 西洋圏の研究者たちが未開のものとして軽んじてきたであろう、土着の魔術的な文化が心の傷の治療に効果的なこともあり、伝統的な村医師に診てもらうほうが症状が楽になるケースもあるようだ。 ここで描かれているのは、生き残った人々が共同体を築き、支え合って生きていこうとする姿だ。「家族はなぜ殺されたのか」「自分はなぜ生き残ったのか」という実存的な問いを抱えながら、同じ傷を持つ人々と復興に向けて助け合うことで、自分の経験の意味を社会の歴史というナラティブの中に位置づけることができる。そして西洋や日本のような直線的な時間ではなく、円環的な時間のなかで生きる彼らは、「未来に向かって生きることで過去が癒される」と考える。まさに「生きることで、魂が癒される」ことの文化的背景が、質的研究と理論研究の巧みな組み合わせにより詳らかにされている。 大竹さん、ルワンダの人々を助けたいという強い想いで現地で住み込みでリサーチと支援をしていること、そこで現地の人々とラポールを築いてかなり肉厚な調査をしていること、そして自身の研究を学術的見地を明らかにしながら明晰に論文化しているのが本当に凄すぎる。この研究をもとに国際援助の新しい仕組みづくりを実行したら、ノーベル平和賞が取れそうなくらいの内容だと思った。 - 2025年11月2日
無数の言語、無数の世界ケイレブ・エヴェレット,大久保彩さまざまな言語の社会・文化的背景について紹介してくれるエッセイ的な本かと思って読んでみたら、さまざまな研究の事例が紹介されるわりと硬派な学術書で、読むのがちょっと大変だった! でも言語は社会と紐づいて発展するという認知言語学の考え方に基づいて、いろいろな事例が紹介されていて興味深かった。 章ごとのテーマが時間・空間・色などの身近なものだったり、冒頭で紹介される筆者の経験談(マンハッタンの街角で眺めた雪や、飛行機から見えるマイアミの海の色をどんな言葉で表したらいいだろう?など)が美しくてよかった。 「言語はそれを話す人々の生き方や世界の感じ方と密接に結びついており、言語が失われるということはそうしたオルタナティブな経験の可能性が失われるということでもある。」 - 2025年11月1日
- 2025年10月30日
僕には鳥の言葉がわかる鈴木俊貴なんて純粋で、美しい本なんだ! 動物に対する興味と探究心、創造的な研究手法の数々、そしてその背景にある「言葉は人間だけのものではないことを証明したい」というまっすぐな知的好奇心が、おもしろく、やさしい言葉で語られていて、まるで透き通った水をすくいあげているような、シジュウカラが住む軽井沢の森の清らかな空気を吸っているような、そんなさわやかな気持ちになる一冊でした。 新しい学問を立ち上げたってすごすぎる! - 2025年10月28日
ミトンとふびん吉本ばなな小学生の頃に『TSUGUMI』を読んだことがきっかけで吉本ばなな作品を好きになり、学生時代は頻繁に手に取っていたが、大人になってからはまったく読んでいなかったから、かなり久しぶりの邂逅だった。 読み始めて、ああこの繊細さ、文章のうつくしさ、と懐かしい思いがした。ともすれば少し食傷気味になってしまいそうなメランコリックな語り口ではあるが(なにかの物語で『彼女は吉本ばななが好き』というのが皮肉っぽく使われていた記憶がある)、それがとにかくやさしい。そのやさしさがこれからの人生、折に触れて沁みてくるだろうと思った。 短編集だが、なにかを失った人々の物語で構成されている。これを読んで、周りの人に感謝したり、日常を大切にしようと思えたから、やはり物語の力はすごい。 「でもここで終わるんだったら、もっと明日葉の天ぷら食べとくんだった、おひたしも。それくらいしか思い残しがない。この人生はすごい、それってすごいことだ。誰にもわかってもらえない偉大さだが、なんて偉大なのだろう、私というこの生命体。」 - 2025年10月25日
毎日読みますファン・ボルム,牧野美加読書に関する本はいろいろあるけど、速読・多読のノウハウや、いかに読書がビジネスでの成功に繋がるか、といった内容には興味が持てずにいた。読書の本質は楽しみであって、必ずしも生産に繋げる必要はないと思っているからだ。 この本では、読書という行為が生活にわかちがたく編み込まれている著者の、読書に対する愛が親しみやすく優しい筆致で語られていてとてもよかった。読書をするなかで直面する悩み(難しい本が読みづらい、増える蔵書をどうするか、人生の絶望と向き合うための読書…)にも丁寧に向き合っていて、本棚に置いておいてふとした折に取り出したい一冊だと思った。 - 2025年10月20日
選ばない仕事選び浅生鴨「大切なのはどんな仕事をするのかじゃない。どんな人間になりたいのか。どんな人生を送りたいのかだよ。」 かろやかな語り口のやさしい本。 好きなこと・やりたいことを仕事にする、仕事で自己実現する、なんて悪しき教育、若者を苦しめるんだからやめてほしいよね。 もし仕事に対して肩肘張って向き合ってた時期に読んだら、と思ったけど、その頃だったら逆に素直に受け止められなかった気がする。 どの会社を受けるか選ばないといけないし、なぜその仕事をしたいのかをアピールしないといけない。 入社してからも何がやりたいのか考えたり、キャリアプランを描いたり…そのままらなさと格闘して数年経ってやっと力が抜けてきたから、そうだよね〜と思いながら読めたんだと思う。 - 2025年10月19日
セミコロンセシリア・ワトソン,倉林秀男,萩澤大輝「セミコロンの歴史」というニッチなテーマに惹かれ、オンラインのレビューでも評価が高かったので期待して買ってみたが、訳文のクセが気になってしまい読むのに少し苦戦した。 全体的に学術書的なだ・である調の文体でありながら、ところどころに妙に若者風の表現が混ざっており(「そゆこと」「マジで」「ドヤ顔」など)、「固めの体裁なのにところどころ崩した表現が入っていて、コントラストがユーモラスでしょ?」といわんばかりの翻訳者の我が鼻について中盤まではあまり素直な気持ちで読めなかった(後半はだいぶましだった)。 とはいえ内容は興味深かった。セミコロンの成り立ちの歴史から意味合いを巡るトラブルの数々、著名な文筆家たちの活用方法(自分としてはマーク・トゥエインの狭量なエピソードが面白かった)そして最後は言語を用いるコミュニケーションにおける倫理観まで広がっていく流れは、いい意味で予想外だった。 言葉の規則にこだわりすぎるのはよくないし、ときには曖昧さも大事だよね、と思った。 - 2025年10月18日All FoursMiranda Julyロンドンの本屋で見かけてカバーのデザインに惹かれたのと、友だちに勧められたのをきっかけに読んでみたけど、終始なにを読まされてるんだ!?って感じだった。 夫婦仲にマンネリを感じていた女性が、旅先で若い男性と恋に落ちたことをきっかけに、女性としての人生の過ごし方を強く意識し、自由に生きたい!という衝動に駆られて突き進んでいく話なのだけど、あまりに性に奔放すぎるのと、恋に溺れた盲目的な行動の数々に、なんやこいつという印象が拭えなかった。 一方で、伝統的な家族観に疑問を抱いていたり、閉経前後の女性の性に興味を持っている人には楽しめる部分があるかもと思った。 海外のレビューサイトを見ても、好き嫌いがはっきり分かれているよう。途中で読むのをやめたというコメントがちらほらあり、まあわかる、と思った。
- 2025年10月16日
訂正可能性の哲学東浩紀面白かった!社会や共同体が持続するためには、訂正可能性が必要不可欠であるというテーマを、ヴィトゲンシュタインやアーレント、ルソー、トクヴィルなど聞いたことはあるけどなにを言ってるのかよく知らないな、という哲学者たちの主張の数々を自在に飛び回りながら紐解いてくれる。その論理は必ずしも明快なものではないので、よくわかったと言ったら嘘になるのだけども、わからないのにめっちゃ面白くて読むのが止まらないという不思議な読書体験をした。何度も読み返したいな〜と思う含蓄に富む一冊。 - 2025年10月11日
やっぱり食べに行こう。原田マハ著者が旅先で邂逅した食(時折自宅も含む)の記録を綴ったエッセイ。 パリ、ロンドン、ニューヨーク、モスクワ、ジュネーブ…といったなかなか縁遠い都市の瀟洒な食レポの数々に、いいな、わたしも行ってみたい!と素直に憧れるか、セレブの自慢だ、鼻持ちならんと食傷気味になるかは人によって分かれそう。 - 2025年10月9日
母親になって後悔してるオルナ・ドーナト,鹿田昌美幼い頃から、子どもが欲しいと思ったことはなかった。社会人になって、経済的に自立してからは、自分の人生が自分のものになったという感覚を得て、子どもを持つことで、その主導権を明渡してしまうことになるのは嫌だと思っていた。 しかし30代に突入して時間が経つにつれ、「子どもがいたほうがいいのかな」と思うようになった。しかしいまだに、「欲しい」とまでは思えていない。 本書を読んで、この「いたほうがいいのかな」という考えに潜む固定観念に気づかされた。女性は、母親になることが正しい生き方で、そうでない選択肢をとる人にはなにか問題があるのだと、実はそういう考えが染みついているのだと思う。マイノリティになることが怖いし、「子どもがいないことで数十年後に後悔するんじゃないか」とも思ったりする。しかしきっとそれは、「子どもがいないことで後悔する」という考え方をいつのまにか内在化させてしまったからではないか。 本書は子どもを持たないことを奨励する本ではない。今も昔も抑圧されつづけている、母親であることの苦悩と後悔を表明することの意義に光を当てる画期的な一冊だ。研究を通して、いかに母親が完璧な存在であることを求められているか、子どもを持つべきという社会的圧力をかけられながら、子どもができたら本人の責任とされて、声をあげることを否定されているか、母親が無視無欲で慈しみ深くあることを求められ、自己を抑圧されて「顔のない存在」となっていることが浮き彫りになる。 本当は自由でいいはずなのだ。子どもがいてもいなくても、子どもがいて幸せでも苦しくても。そして苦しいと表明することは、母親であることや子どもの存在の否定を意味しない。本当は後悔していると言っていいのだ。どんな選択にも後悔はつきものなのだから、母親になったことを後悔したって、それを分かち合えることが、女性として、人間としての生きやすさに繋がっていくと気付かさせられた。
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