
CandidE
@araxia
2025年7月21日

ゴリオ爺さん
バルザック,
中村佳子
読み終わった
正直、読書観が自動更新されてしまった。屈指の面白さ、文句なしのオールタイムベスト。しかも、本書の訳が非常に読みやすかった。で、
バルザック、ちょっとレベルが違くないですか?
普通の小説ならクライマックスになる密度の展開が、あくまでも「本編の前提条件」としてあっさり処理される衝撃。並の作家なら、それだけで一作品となるべき量とクオリティが、単なるプロローグとして平然と流れ捌かれ、そこからさらにギアが上がっていく疾風怒濤の唖然。凄まじい。
その読者の人生よりも、ずっと人生している感じ。登場人物たちがただ蠢くだけではなく、全員が常に経済の荒波に呑み込まれ、片時も銭勘定から逃れられないリアリティ。泥沼ドロドロのサスペンスで、金、欲望、地位、政治、権力、恋愛、慈愛、友情、嫉妬、裏切りのオンパレードなのに、ストーリーが極めてスムーズかつスマートかつ絶妙のタイミングで収束していく、その見事な速度。すべての描写精度において読者を裏切らない、甘やかさない、一切なめていない。圧倒的であった。
かつて20歳やそこらで岩波文庫の『ゴリオ爺さん』や『谷間の百合』を読んだときの印象が完全に吹っ飛んだ。当時はもっと散文的でパサパサしているように思った。それは私が完全に未熟で、その内容も面白味もまったく理解できていなかっただけに相違なく、誠に不甲斐ない。人生はよくわからない。
兎角、温故知新。これを機にバルザックをゆっくり急ぎながら読み進めていきたい。いければ幸い。




