
読書猫
@bookcat
2025年7月24日

生命式
村田沙耶香
読み終わった
(本文抜粋)
“「俺はさー。今の世界、悪くないって思うよ。きっと、池谷が覚えてる、30年前の世界も悪くなかったんだと思う。世界はずっとグラデーションしてっててさ、今の世界は、一瞬の色彩なんだよ」(「生命式」)“
”「相手の作った食べ物を食べるって、相手の住んでいる世界を信じるってことでしょ。久美の世界を面白がることはできても、それを口に入れるのはちょっと難しい。食べ物なんて、変なものばかりだと思うけど、だからこそ、騙してくれないと食べることができないんだよ」(「素晴らしい食卓」)“
”二人は詩穂より過激なことをたくさん知っているのかもしれない。
でもアキやミホは、誰かが作った「いやらしいもの」の話をしているだけで、自分の身体の中のいやらしさを、きちんと育てていないように、私には感じられてしまう。だから他人の「いやらしいもの」の中に簡単に呑み込まれていってしまいそうに思える。(「魔法のからだ」)“
”「……私たちの快楽は私たちのもの、あなたたちの快楽もあなたたちのもの、私たちは私たちの快楽を発見する、快楽を裏切らない、私たちは私たちのからだを裏切らない……」(同上)“
”ユキオの唇から、また、微かな風が漏れた。
そのたびに、僕はその風を吸い込んで震えた。僕はこの風を浴びるために、この部屋に11年間吊り下げられていたのだと、初めてわかった。(「かぜのこいびと」)“
”コンクリートと人間は、相反するものではなかったのだ。この世に蠢きまわる人間の全てが、私達、灰色のビル全ての、共有の内臓だったのだ。そう思いながら、早苗はふらふらとビルに近づいた。(「パズル」)“
”生命のざわめきをかきわけ、空腹の胃を抱えた私は、今夜の食べものを、この街の隙間から少しだけもぎ取る。生き物の気配は遥か彼方まで続いていて、途方もなく思えた。私もそのざわめきの一部になって、呼吸を吐き出し動き回って空気を揺らし、生きている振動を街に染み込ませた。(「街を食べる」)“
”このとき、私ははっきりと自覚した。
私には性格がないのだ。
あるコミュニティの中で「好かれる」ための言葉を選んで発信する。その場に適応するためだけに「呼応」する。ただそれだけのロボットのようなものだったのだ。(「孵化」)“


