ゆい奈 "うるさいこの音の全部" 2025年7月24日

ゆい奈
ゆい奈
@tu1_book
2025年7月24日
うるさいこの音の全部
話す相手がどんなことを求めているか、なにを話すと喜んでくれるのか、というのは、人類みな考えているものだとおもっていたのだけど、ちがうのだろうか。あまりにも平気で嘘をつくこともあるのは私だけなのだろうか。嘘ではあるのだけれど、嘘ではないといった具合の嘘も、まるっきりの嘘も。相手との会話を盛りあげるためにできないことをできるといった嘘も、シンプルにすごいとおもわれたくてついた嘘も、覚えていないほどある。この小説の主人公はそれで収拾がつかなくなっていくわけだけど、それがリアルで自分ごとのようにヒヤヒヤとした。おもしろかった。高瀬さん4作品目。どれも秀逸だけど一番好き。 舌打ちをしそうになったけれど舌打ちできない場面で、【口の中で舌がつる】と書かれていて、ほへぇとなった。仕事中の私は頻繁に口の中で舌がつる。 (図書館本で自宅の本棚に置いておけないので引用メモをたくさん残す) p107「主人公の軽薄さを表現するために差別的な言動を書いているのだと説明したら、どんな反応が返ってくるのだろう。“だけどその差別的な言動っていうのを考えて書いたのもあなた自身だとね”と言われたら、そのとおりだ。自分の中にないものは書けないはずだよね、と問うてくる人に“そんなことない”と言い返す気概が、朝陽にはない。ほんとうにそうだろうか、と疑う自分の方が強くいる。」 p127「人に嫌われたくないけど、人に嫌われるようなことを書くのは平気だから不思議だ。いい人に見られたいし、付き合いがいい方がと思われたいし、一緒にいて楽しいとか、気楽だとか、おもしろいとか思われたい。めんどうなやつだとは思われたくなくて、嫌なやつだとか恐いやつだとかとも、絶対に思われたくない。そのことと、小説を書くことは、自分の中で矛盾したまま両立している。」 p138「こうして決めつけて予測を立てて、それに裏切られることはよくあって、その度にわたしは自分のことが嫌いになる。嫌いになるし、馬鹿だと思うし、あなどる。それでも別の人間になりたいとは思わず、自分のままで、でも自分ではないようにありたいと願う。」 p181「“ほんとうなわけない”と自分が発した言葉に傷つく。小説はほんとうではないのだろうか。嘘だけど嘘じゃないのに、事実ではないけどほんとうではないと言ってしまっていいのだろうか。」 p215「ナミカワさんがうれしそうな顔をしてくれる。今自分が口にしたことは嘘だろうか、ほんとうだろうか。どっちだろう。どっちにしても、ナミカワさんはこれからわたしの嘘ばかりを追うことになる。それは、ここ最近で新しく生まれた取り返しがつかないいくつかのことのうちの、ひとつだった。」
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