チ〜ズ明太娘 "文庫版 近畿地方のある場所に..." 2025年7月27日

文庫版 近畿地方のある場所について(1)
掲載されている資料関連や話の大筋は同じだけど単行本とはかなり印象が違う。 主人公が違うのもあるけど単行本はモキュメンタリーとして、文庫版は小澤を主人公にした物語として話が構成されている。 単行本はモキュメンタリーとしてとにかく怖いけど、文庫版は怖いけど悲しい物語、という印象。 単行本では謎めいていた部分がかなりわかりやすく物語としてネタバラシ的に説明されるので怖さは単行本より抑えられている。 単行本の主人公(文庫版では瀬野千尋と名前が明らかになっている)は小澤の行方を探しているとあったけど、文庫版は小澤視点で語られ本当に行方不明になっているのは瀬野であることが明らかになっている。 単行本と文庫版の情報を合わせると、単行本で瀬野が「小澤を探している」というのは真っ赤な嘘で、元は自分の家族である怪異を拡散することが目的の釣り餌なんだなとわかるので改めてウワァ…と嫌な気持ちなる。 単行本だと小澤が1人でどんどん近畿地方のある場所にのめり込んでいって最後は失踪してしまったように書かれているけど、文庫版では瀬野が小澤を誘導している。 瀬野はもうあちら側に飲み込まれてしまっていて怪異をばら撒くものになっているし、小澤はそれでも瀬野に会いたいけどいくら調べてもあちら側に通じるための「あの子(あきらくん)」が見えないから会えない。瀬野に会うために「あの子」の情報を集めようとしてこの話を拡散しているという構図。 単行本と文庫で「世界は同じなのに隔絶している」のをメタ含めて表現してるのすごいな。 瀬野が小澤が失踪したと嘘ついてる、と書いたけど、結局両者とも「この話を拡散するのが目的」なのは共通で、それがこのホラーの一番怖いところだから、他の整合性や可能性については曖昧なんだと思う。 やっぱり小澤もおかしくなって失踪してるみたいな可能性もあるし(全員怪異に触れて発狂してるんや説)なんなら単行本と文庫で実はパラレルワールド(単行本では小澤は本当に失踪してるし文庫では瀬野が失踪している)なんて可能性もあっておもしろい。 「馬鹿なことしてるよね」というのが瀬野母子共通の口癖なんだろうなと察せられと悲しい。 馬鹿なことしてると思ってるけどやめられないんだよな…そしてこれ、「〜してるよね」って半分問いかけみたいなものなのに、誰もそれを肯定も否定もせず見て見ぬ振りして止めなかったからこの話になるのだというのが今回の文庫版でわかって怖いよりもやるせなくて悲しい…………の気持ちが先立つようになるのが上手いなー! 私の心の中のギャルが「全然馬鹿なことじゃないっしょ!!」って言ってるよ瀬野……「馬鹿なことじゃないけど良くないことではあるからやめな!!!!」とも言ってます……… モキュメンタリーとしても物語としても完成度高い作品で改めて感服しました。
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