
阿久津隆
@akttkc
2025年6月25日

ダロウェイ夫人
ヴァージニア・ウルフ,
丹治愛
読んでる
女王陛下か皇太子殿下か総理大臣閣下が乗っているかもしれない車が通っていった。「車は立ち去ったが、あとに残されたわずかなさざ波は、ボンド・ストリートの両側に立ち並ぶ手袋店や帽子店や洋服店をひたした」。そして何かが起きた。
p.37
すべての帽子店と洋服店では、見知らぬ人たち互いに顔を見合わせ、戦没者や国旗や帝国のことを思う。ある裏通りのパブでは、植民地から来たひとりの男がウィンザー王家を侮辱し、そのために口論が起き、ビールのグラスが割られ、大騒ぎになったかと思うと、通りを隔てた店にも異様な反響をひびかせ、結婚式のために純白のリボンが縫いつけられた白いリネンの肌着を買っていた若い娘たちの耳もとにも達する。通りすぎていった一台の車がつくりだした表面上の動揺が、深みへと沈んでいくにつれ、とても深いところにあるなにものかに触れたのだ。