
読書猫
@bookcat
2025年7月31日

献灯使
多和田葉子
読み終わった
(本文抜粋)
“今はもう趣味を煉瓦として使って、個性という名の一軒家を建てようとは思わない。どんな靴をはくかは重要な問題だが、自分を演出するために靴を選ぶことはなくなった。“
“自分の世代の人間は長寿を祝う必要なんかないのだと義郎は思う。生きていることはありがたいが、老人は生きていて当たり前なのだから祝う必要などない。むしろ死亡率の高い子供が今日も死ななかったことを祝うべきだろう。”
(「献灯使」より)
“一子は破けてしまった心をかたく凍らせて、待つのはやめよう、忘れよう、と決心した。翌日のその翌日も「待たない」自分の強い意志が自分の中にあるのを確認した。ところが何日たっても、待たない自分がしこりのように喉につかえて、待つのをやめているということが待っているのと同じだけの苦しさで一子を支配し続けた。”
(「韋駄天どこまでも」より)
“瀬出は深緑色の海面を憎しみをこめて睨んだ。海には責任がないことは充分承知していた。責任をとらなくてもいい主体を人は「自然」と呼ぶ。“
(「彼岸」より)