
読書猫
@bookcat
2025年8月2日

となりの脳世界
村田沙耶香
読み終わった
(本文抜粋)
“人の脳の数だけ世界があることを考えると、なんて豊かで、奇妙で、素敵なんだろう、と胸が高鳴ります。誰もが、自分だけの奇妙で愛おしい脳を通して、世界を見ているということが、とても素晴らしいことに感じられるのです。“
(「まえがき」より)
”不完全な大人のまま、私は小説を書いている。それは子供を救うようなものでは到底ない、過激なものばかりだ。でも、小説は私の救いだった。なぜ思春期を乗り越えることができたかといえば、「不完全な大人」らしき人が書いた、自分より絶望した人間の言葉が、本の中にあったからだった。誰かが書き残した絶望が、私にとっては希望だった。その暗闇を頼りに、思春期を少しずつ進んで、乗り越えていった。“
(「不完全な大人のままで」より)
”もし、急に日本語の意味がわからなくなったら、世界はどんなふうに見えるのだろう。開いていた本が急に意味を失って記号にしか見えなくなっていく。そんなことを想像すると恐ろしいが、その羅列は、どんなふうに見えるのだろう。どきどきしながらも、私は今も熱心に、完璧な「架空の日本語」を目指して創り続けている。“
(「日本語の外の世界」より)
”貴方が私に朝と昼と夜という時間の流れを与えてくれ、「現実」という世界を歩き回る不思議な靴をプレゼントしてくれました。私にとって貴方は魔法使いでした。貴方がいなければ私は「朝」という時間がこの世にあることすら感じられないまま生きていたでしょう。“
(「コンビニエンスストア様」より)
”高校の時、美術部で油絵を描いていた頃、黒い絵の具は絶対に使うな、と言われたことを思いだした。買った黒ではなく、赤や青、緑、たくさんの色を混ぜて、自分だけの黒を作らなければいけない。その言葉がとても好きで、絵をあまり描かなくなってからもずっと覚えていた。“
(「誓いの色を着た日」より)
”私自身が興味があることはかなり限定されていて、他者がいない世界でそこに閉じこもっていると、同じ感覚、同じ言葉、同じ出来事の繰り返しになってしまう。だから、誰かを通じて違う世界を摂取したいといつも思っている。“
(「文學界と蟹」より)

