
読書猫
@bookcat
2025年8月3日

わからない
岸本佐知子
読み終わった
(本文抜粋)
“実家を出て、翻訳の仕事を始めて十年ほど経ったころ、父と電話で話したことがあった。どういう話の流れだったか、父が急に「そんなに何もかもうまくいかなくたっていいじゃないか」と言われた。あのとき父は、どうして私が煮詰まりまくって苦しんでいたことがわかったのだろう。今もその言葉に救われ続けている。“
(「アシブト、アシボソ」より)
”ドラえもんは、べつに何もしてくれなくていい。四次元ポケットから便利なものを出して、私たちを助けてくれるんでなくていい。ただ未来から来てくれるだけでいい。そうすれば、私たちに未来があるとわかるから。“
(「オバQ、あるいはドラえもん」より)
”大人になって、「わからない」ことが少なくなって、反対に腑に落ちる物事の占める割合が増えたぶん、世界は、つまらなくなってしまった。──いや、それは嘘だ。わからないことがあると、ただうろたえ、不安になり、せかせかとわかろうと努め、あるいは頭から否定しにかろうとする。そして二度と読み返さない。なんだかわからない美しいものを、なんだかわからないまま楽しむことのできた子供の私は、読み手として、今の私よりずっと上等だった。“
(「『にんじん』と私」より)

