
もん
@_mom_n
2025年8月4日

送り火
高橋弘希
読み終わった
心に残る一節
@ カフェ
私は小説における暴力描写が好きだが、表題作の暴力描写は今までに読んできたどの作品よりも怖くて痛かった。途中で何度も息を止めた。凄惨なのに目が離せなくて、顔面を歪ませながらなんとか読んだ。凄まじい筆力。
p.27
小学生の子供達が、路傍で天を仰ぎながら、風が咲いた、風が咲いた、とはしゃいでいた。歩は子供達を横目にしながら、彼らにまだ言葉が足りないことを微笑ましく思った。しかし自宅へと続く坂道を登る頃になると、晴天の白い雪片は花弁にも見え、風が咲いた、というのはあながち間違えでもない気がした。
p.119
後方から何者かに摑まれ、その手はどうにか振りほどいたが、バランスを崩して前のめりになり、右脚で踏ん張ろうとすると、地面は滑らかに崩れ、その場所に肉体が沈んだかと思うと、視界は目まぐるしく回転し、一瞬、森が開け、目の前に色濃い夏空が広がり、その直後すべてが暗闇に鎖された。
p.162
雨が過ぎると、前庭にはいくつかの水溜まりが残されていた。どの水溜まりも、均等に雨後の青空を映している。だから地面に、小さな青空がいくつも落ちて見える。