saeko "ブレイクショットの軌跡" 2025年8月5日

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@saekyh
2025年8月5日
ブレイクショットの軌跡
「彼ら二人の人生は複雑で、批判的に捉えるにせよ虚像の中で英雄的に捉えるにせよ、どうとでもいえるのだろう。」 「世の中にある情報ってそんなに『わかりやすく』できるものなんだろうか。ひょっとして(中略)世の中の多くの人たちは、いつも複雑な世界を過剰に分かりやすくしてくれる誰かを求めていて、その一人がジョー先生なのではないだろうか。」 直木賞候補だったこの作品。本屋で手に取ったときは想像よりも分厚くて読み切れるか少し不安だったけれど、ひとつひとつのエピソードに深みがあって面白く、読み進める手が止まらなかった。 それでもボリュームがあるので読む楽しみが続くのが、長編小説のいいところだと思った。 本作では、異なる場所で異なる人物に起こる一見無関係な出来事が、ブレイクショットというキーワードを中心に繋がっていく様子を見事に描いてみせる。 登場人物がそれぞれの希望と苦悩を抱え、複雑な背景を持っているのだが、その沢山の要素が寄り集まってネットワークが紡がれていく設定の緻密さが圧巻だった。 そして物語の根底には、作者の現代社会への問題意識が息づいている。それはたぶん、世の中の出来事を単純化し、物笑いの種として消費することの軽薄さだと思った。 わたしたちの目の前にある物事は想像以上に複雑で、自分に関係したりしなかったりする人が思わぬ形で携わったすえに存在している。 それを自覚したとして、世界にどう向き合い、どう生きていったらいいのか? それに対する答えを、それまでの重たさからは想像できなかった、希望溢れる爽やかなラストで提示してくれた。
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