
ぱち
@suwa_deer
2025年8月8日

生命式
村田沙耶香
読み終わった
単行本で読んだつもりだったので再読だと思っていたけど、読み進めたら全然読んだ記憶がなかったので、きっと僕の捏造した記憶だったのでしょう。新鮮に読めて良かったと前向きに捉える。
さて、以下、収録作で気になった作品を抜粋して感想メモ。
※ネタバレ含む。
「生命式」
葬式の代わりに亡くなった人(の人体)を料理して他人にふるまうのと同時に、参列者はその場で手頃なパートナーを見つけて「受精」をおこなう、「生命式」という儀礼が普通になった社会。
人類の文化の中でも亡くなった人の人肉を食べるという風習を行う文化はあった(小説の中でも言及されている)し、葬式における「喪に服す」とは異なる形で、亡くなった人の人格を弔う様が描かれている。
ある意味「生産性」を重視した社会においてこういう儀礼が発生するのは当たり前なのかもしれないと思った。
突き詰めていけば物質としての人間(身体)の有用性はあるのか?という問題が描かれていて(『信仰』でのテーマ「人新世」が問題とするものとかなりリンクすると思う)、この点は『世界99』を読んでいると腑に落ちるものがある。それが良いのか悪いのかは分からないけれども。
「素敵な素材」
ひとつ前の収録作「生命式」と近い設定で、こちらも物質としての人間の身体に有用性はあるのか?というテーマ。「生命式」と同じく、モノとしての人間にも人格や社会性があるということを描いているように思う。「生命式」も「素敵な素材」も一見グロテスクな題材を扱っているように見えるが、最後まで読むと「人間(性)はなくならない」ということを描いているのではないかと感じた。
「素晴らしい食卓」
他の収録作品に比べるとわりとシンプルな話になっているはずなのに何だか説明が難しい作品。
かなり比喩的に言うなら、それぞれの美学に基づいてそれぞれの食があるよねと、文化相対主義的な話にまとまりそうなところで、暴力が降って湧くという話。
しかしこの「暴力」はいったい何なのか?
言語化するのは難しいけど、とても示唆的な物語だと感じた。
「パズル」
「優しい」に価値があってそれが機能するためには、その反対の概念や対象が必要。
パズルのピースとピースみたいに、その依存的な関係性が存在の輪郭を形づくる。
全体としてのパズルではなく、ピースとピースとがハマるうちに、それが全体のパズルになっていくということなのだろう。
「孵化」
この作品の主人公が『世界99』の主人公のモデルになったという。確かに設定はそのまんまだ。
だからこそどこが異なるのかという点に目がいってしまう。
ひとつ大きな差異としてはこの作品の最後に「喪失」が描かれているところだと思う。
ここでの喪失は、失恋的な喪失感とは異なる感じがある。
全部の作品を読んでないけど今まで読んできた村田作品から培われたイメージでは、主人公が周りの人に喪失感のようなものを味あわせることはあっても、主人公自身がそれを感じることはなかった気がする。
村田作品を今後も読む上で頭の片隅に置いておきたい作品。




