yo_yohei "プロジェクト・ヘイル・メアリ..." 2025年8月9日

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@yo_yohei
2025年8月9日
プロジェクト・ヘイル・メアリー 上
プロジェクト・ヘイル・メアリー 上
アンディ・ウィアー,
小野田和子,
鷲尾直広
本作には、マイクロアグレッションが頻出する。例えば、登場人物が英語を話す場面で、たびたび「XX国特有のキツい訛りで」と描写される点だ。これは物語上の必然として訛りを強調しているのではなく、白人アメリカ英語を無意識に基準とし、それ以外を劣位に置く価値観の反映と言えるだろう。こうした記述は、読み手の多様な背景を想定する視点を欠き、結果として差別的ニュアンスを帯びていると思う。 また、異星人に対して主人公が勝手に名前をつける描写も同様だ。仮に呼称が必要であっても、「便宜上◯◯と呼ぶ」などの留保を置くことは可能だったはずだ。それをせず、あたかも命名権が当然のように振る舞う姿勢は、植民地主義的な態度を想起させる。これらはいずれも、キャラクター造形として意図されたものというより、作者自身が持つ無自覚な加害性をそのまま映し出しているように見える。 物語の展開もきわめて安易である。主人公はかつて執筆した論文を、世界の全権を握る人物から高く評価され、地球外生命体の研究という栄誉ある任務を与えられる。偶然にもその研究で世界初の繁殖に成功し、さらに極めて稀な体質を持つため、宇宙船搭乗者に選ばれる。しかも、その航行は燃料の制約により片道切符であり、帰還不能という状況設定までが「英雄的自己犠牲」の演出として付け加えられる。宇宙での探査では、地球人として初めて知的生命体と遭遇し、自らの論文の仮説が正しかったことまでも証明される。 このように、重要な成功や発見がすべて主人公の手に収まり、しかもその経緯が偶然と都合の良さで積み上げられていく構成は、「気がつけば自分が英雄になっていた」という自己投影的ファンタジーに近く、物語としての成熟を欠いている。 色々な人の感想を読む限り、上巻だけで既に「面白いか面白くないか」を判断してもよさそうなので、下巻は読まないこととする。
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