米谷隆佑 "蛇を踏む (文春文庫)" 2025年8月11日

米谷隆佑
米谷隆佑
@yoneryu_
2025年8月11日
蛇を踏む (文春文庫)
最初は、蛇が柔らかいと思って読んでいた。踏まれて溶けたり、女に変身したりするから。質量のない蛇を考えていた。小説にできることは、全体の調子を崩さずにうまくまとめることだと思う。軟派なひらがなや川上弘美の文体は、やはり蛇と世界をやわらかくして、淡い輪郭を保ったまま謎を深めて強引に流してしまう点に、彼女の信じる生物と無生物の虚構が見えてくるようだ。現実の蛇は硬い皮膚があって、背骨があって、気温に依存した体温が感じられるはずで、うその蛇とこっちの蛇はどうも違うらしい、ということに気が付いたら、光の中で開かれた「蛇を踏む」の世界がばたんと閉じた気がした。
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