
kirakira30
@kirakira30
2025年8月14日

南洋標本館
葉山博子
読み終わった
またいつか
心に残る一節
学び!
骨太の物語。ただただ植物を愛した人たちが時代の波に揉まれ、翻弄されていく。平時だったら絶対にしないだろうことも戦時中だとあまり躊躇いもなく?良心の呵責もなく?行動してしまうことの恐ろしさを改めて感じたりしながら、2人と2人を取り巻く人たちの行く末が気になって、最後はゆっくり、でも一気に読み切った。
まさに「国に翻弄され、政治に流され、戦争に消費され、時代の中で夢を見た二人の生き様を、熱く冷静に書き切った。読むことは知ることだ、知ることは考えることだ、考えることは進むことだ。陳と琴司、彼らを取り巻く人々の足跡の先に、わたしたちは立っている。」池澤春菜さんの帯に寄せた言葉に尽きる。
どうして、国は、いや権力をもつ人は、誰かを支配したいと願うのだろう。どうして、それを止められないのだろう。誰も幸せにならない道を突き進んで、崩壊する。崩壊しても、もう過ぎた時間は戻らない。3つの名前を持ち、時代に翻弄されながら生きたひとりの人の人生をどう言葉にしていいものか、まだ言葉は見つからない。
この時代を学び、また読み返したい。
・「イマムラさん、私たちは、ヨーロッパ法における人権を得るためには、つまり《人間扱い》されたければ、逆説的ですが、まずアジアにおいてインドネシア人にならなければなりません。さもなければ、植民地の被支配民、現地人、未開人、野蛮人……いろいろ呼ばれ方はありますが、いつまでも漠然とした、《あちら側の人間》ではない者、つまり搾取されるにふさわしい、低い、人間以下の存在に押しやられたままなのです。あちらには《物語(ロマン)》があり、雄弁で素敵な格好をした《登場人物》がいます。そして私たちはロマンの登場人物にはしてもらえなかった。だからこそ、私たちがインドネシア人であることを、オランダ人に、ヨーロッパのその他の具体的な国名を持つ民族の人々に、そしてあなた方日本人に、認めてもらえるよう努力しめきたのです」(p302)
・「我々は旧き西洋でも老いた東洋でもない、古い考え方を棄て、やがては和解と発展の盟主となるべき、真に独立した、第三の道を模索しなければならないと予感しています」(p303)
・「インドネシアは人道主義と文明の原則に従って、植民地からの独立を自ら達成しなければなりません。インドネシア人の内面に自由の精神が生まれるように、私たちは民族を教育しつづける。人民が自分のことを自分で決定でき、自己の権利と価値を知るために。しかし……」(p417)
・「ああ、私は本当のことを言うつもりだ。司政長官として行ったすべての事実を。それは私一個人の生命にとってというよりは、人類の歴史に対する誠意からだ。強権的な国、覇権的な国では、政治はおろか歴史を語る者たちの口まで噤まされるものだ。そうしているうちに、人は《円滑な関係を維持するため、お互い歴史は話題にしない》ことが正しいと思い込むようになる。だが、それで満たされるのは当座の利害だけだ。打算が優先された結果、真実が消され、後世には、人民への脅迫に他ならない、独裁者の《ありがたああ語録》だけが残される。私は、二度とは覇権的指導者の思い描く独裁的未来には加担すまい。そのために私は、未来の日本のため、これから独立するインドネシアのため、世界のため、すべてを包み隠さず語ることにしよう」(p448)

