kei "街とその不確かな壁(下)" 2025年8月15日

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@k3245
2025年8月15日
街とその不確かな壁(下)
村上春樹著「街とその不確かな壁」読了。 2025/8 3冊目 ◎サマリ ・村上春樹がずっと向き合ってきたもの ・何が自分で、何が影か ・苦しい経験も時間が解決してくれるもの ◎書評 スカートを履きベレー帽を被る元図書館館長の幽霊、イエローサブマリンのパーカーを着る少年、コーヒーショップの女性。 相変わらず村上春樹の作品に登場する人物たちは魅力的すぎる。 中でもイエローサブマリンの少年がこの小説におけるキーマンだったと思う。 ①村上春樹がずっと向き合ってきたもの 結局、村上春樹になぜ我々が魅了されるのか。 それは現代人がなんとなく抱える「孤独」を描きだしているからだと改めて感じた。 主人公のセリフ 「孤独が好きな人なんていないよ。たぶんどこにも」 これが村上春樹の本音なのだろう。 でも人々は意図せず孤独を味わうことになる。そんなことは求めていないはずなのになぜかひとりに。 個が強調される現代、孤独になるシーンはどんどん増えていると思う。 そんな「孤独」を言語化し、絶対に自分に寄り添ってくれる人がいるという希望を見せてくれる村上春樹作品は心から現代人が求める小説なのだと思う。 ②何が自分で、何が影か 今回の小説には壁に囲まれた不思議な街が登場する。 その街に入るには影を差し出さなければならない。 今の自分は何者なのか、もしかしたら自分の影が勝手に自分に成り変わっているのではないだろうか。 そんな不安さえ感じる。 たまに心にもないことを言ってしまうことが人間誰しもあると思う。これが本当の自分なのか…唖然とすることもあるだろう。 つまり、自分も気づいていない影のような存在をみんな自分の中に飼っている。 それは恐ろしいことかもしれないが、それも受け入れて一体になることで見えてくるものがあるということを村上春樹は伝えたかったのではないかと思う。 ③苦しい経験も時間が解決してくれるもの この物語の主人公は高校時代の淡い恋愛にずっと縛られている。 他の経験で上書きすることができないほど恋。 「いったん混じりけのない純粋な愛を味わったものは、言うならば、心の一部が熱く照射されてしまうのです。」 しかし、照射され脆くなったものはそのままなのだろうか。 そんなことはないというのが村上春樹の回答だと思う。 やはりこうした経験は時間が解決してくれる。逆に言えば時間しか解決してくれないのだと思う。 今回は珍しく村上春樹のあとがきがついている。 最後の真実のありかについての記載が本当に心に響いた。 71歳の村上春樹が書き上げた小説。71歳の彼だからこそ語れることがある。 時間は残酷であり美しい。
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