yuna-yuna "灯台へ" 2025年2月6日

灯台へ
灯台へ
ヴァージニア・ウルフ,
鴻巣友季子
それにしても、おかしいわね。と、夫人は思う。人は独りになると、こんなにも物にー木とか川とか花とかいった動かざるものに頼ろうとする。物が自分を表しているように感じ、あまつさえ同化した気がし、あれは自分のことを知ってくれている、ある意味、自分自身に他ならないんだと思ったりする。そうしてわけもわからず優しい気持ちを覚えたりするんだわ(ここで、長くしっかりと照らす光を見やりながら)、そう、自分自身に感じるような。すると、そのときなにかが湧き上がり、夫人は、針を止めたまま、じっと目を凝らしつづけた。心の奥底から渦を巻いて立ちのぼり、人と言う存在の湖水から浮かびあがってくるのは、おぼろな靄だった。まるで、花嫁が愛する人を迎えでるかのように。 P116から
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