米谷隆佑 "BRUTUS (ブルータス)..." 2025年8月18日

米谷隆佑
米谷隆佑
@yoneryu_
2025年8月18日
BRUTUS (ブルータス) 2025年 8/15号
筒井康隆の短編「似たやつ二人」を読む。音楽と小説の創作と商業的成功は似ているか、という問いに対し、皮肉と機知に富んだ結末を提示していたが、二つの類似点を見つけることがゴールではないのだろう、と思って読み終えた。同じ畑の野菜でも、ナスはナス、ニンジンはニンジンなのだ。 ハン・ガンの短編「白い花」を読む。96年、当時25歳にして著された小説が、本誌を機に初の邦訳。訳者は、やはり斎藤真理子。 筆者の文体によって運ばれた先には、食と命を清める儀式的な日常だった、と思って読み終えた。主人公の食の拒絶と船の同乗者の嘔吐が、ぼくらの身体をネガティヴに震わせ、済州島で聞いたという悲劇の物語が、命の大切さを精神に刻みつけた。 作中の「白い花」が儀式的に「死」を悼み、「白いスーツ」が装束のような異質さながら、しかし老いと男性性の記号に乗ってポジティブに伝わる「死」を包み込んでいたと思う。そもそも題の「白い花」が、いい仕掛けだ。虚構空間全体に淡く白いイメージを帯びて、映像的な美しさを離さない。だが、齢25とは思えない切なさを漂わせていることに対して正直、短編小説の質の高さよりも作者の精神状態が気がかりで、読後感は白く不穏である。 「新作が出たら読みたい日本の作家16人」に朝比奈秋先生の『植物少女』が紹介されていた。個人的に嬉しい。
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