
冬野
@fuyuno
2025年8月19日

未来図と蜘蛛の巣
矢部嵩
読み終わった
奇妙さや危うさ、必死さ、そして真摯さを感じる掌編・短編・中編作品集。
泥濘にはまって足掻くけれど空回りしてほとんど進めない、といった状況を描くのが上手すぎる。
「ケーキを食べる」の悲痛な終わり方が好き。
収録作品の中で最も文量のある中編「エンタ」は痛ましい負傷描写と独自の語句や登場人物の多さ、そして頻繁に挟まれる欄外の注釈に戸惑ったものの、注釈で補足される人物紹介が味わい深くて面白かった。女性のみが所属する劇団で、自身の身体を舞台向けに改造しながら剣や飛び道具を用いて命懸けのショウを客に披露する演者たちの生き様と末路……容赦のない描写に圧倒されながら一気に読んだ。本当に容赦がない。
「幼馴染のAは小二まで女子でその後は机だった」というとんでもない一文から始まる「歩程」も奇抜な設定ながらとても良かった。
「蜘蛛の国から」の終わり方も良い。「明日があると思わせる、何かがあると信じさせる」というテーマは「エンタ」でも描かれていたけれどやはりグッとくる。
全体的に残虐でグロテスクな描写多め、一部ホラー色強めな話や生き物がかわいそうな目に遭う話もあるので苦手なものがある方はお気をつけて。