冬野 "魔女の子供はやってこない" 2025年8月20日

冬野
冬野
@fuyuno
2025年8月20日
魔女の子供はやってこない
魔女の子供はやってこない
小島アジコ,
矢部嵩
大多数の読者にはトラウマを植え付け、ごく一部の読者にとってはバイブルになりそうな一冊。個人的には大好きだけど人には絶対に薦められそうにない。 とある不思議なステッキを拾ったことがきっかけで魔女のぬりえちゃんと友達になった小学生の女の子・夏子。夏子は人間たちの願いを叶えるというぬりえちゃんの修行を手伝うことになり……というストーリー。 目次は作者による手書きの地図になっていて、物語の舞台となる「自由町」の地理が一目で理解できる。自由帳に空想を広げている時の楽しさが伝わってくるような温かみのある画風も魅力的。 ストーリーは不条理と意思疎通の齟齬と残酷さと真摯さに満ちていて、グロテスクな描写や痒みの描写、虫の描写が凄まじい(虫が少しでも苦手なら本当に読まない方がいい)ので確実に人を選ぶものの、ストーリー展開や登場人物の言動が予想外で惹きつけられるし、愉快な台詞や胸を打たれる場面も。「願い」や「責任」などについて考えさせられるシーンもある。 小学生の口調を手直しせずそのまま書き写したような台詞や、小学生の夏子の感性を反映した独特の地の文も好き嫌いが分かれる点だと思うが、自分はとても好みだった。言葉選びの美しさを随所で感じたし、個性的な比喩や風景描写も新鮮で眩しかった。ただ、人体破壊描写や不潔さ、虫が襲い来る様子などが圧倒的な筆力で表現されているので精神的に元気な時でないと読み返せないかもしれない。 全6話が収録されていて、グロテスクさ控えめで幻想的な話もあればイヤミスめいた話もある。個人的には斜め上のストーリー展開や描写の醜悪さの割に謎の読後感の良さが味わえる3話が好き。
読書のSNS&記録アプリ
hero-image
詳しく見る
©fuzkue 2025, All rights reserved