
もん
@_mom_n
2025年8月22日

赤い砂を蹴る
石原燃
読み終わった
心に残る一節
@ 図書館
太宰のお孫さんが書いた小説と聞き、ずっと気になっていた作品。読んでいる間は太宰のことなんてすっかり忘れていた。
私は登場人物に感情移入して没入するように小説を読むことが多いが、この作品は紀行文を読んでいるような、ドキュメンタリー映像を見ているような、俯瞰的な読書体験だった。最後の一文がとても好きだった。
p.22
家に残された大輝の紺色のジャンパーや黒いランドセルが、大輝だけでなく、死ぬまでそれを手放せなかった母の姿を思いださせるように、目の前にあらわれる大輝の姿には、その気配を追い続けていた母の姿がついてまわる。
p.117
その夜は、惣菜でもつまんでさっさと寝ようと思い、駅ビルの惣菜屋に寄った。よく見もせずに惣菜セットらしきものを買って家に帰り、包みをあけたら、パーティー用のオードブルセットだった。誰もいない暗い部屋で、それは不釣り合いに華やかで、母に言ったら馬鹿にされるな、と思ったら、初めてのどの奥が熱くなった。
p.152
「ふたりの死は悲しい。なのに、その死を否定することもできない。それはたぶん、私自身が自分の人生を否定したくないと思ってるからだと思う。ふたりの存在を抜きにした私の人生は考えられないから。ふたりの存在を肯定するためには、死んでしまったことも全部ひっくるめて、肯定せざるをえない、そういうことなんだと思う。」



