読書猫 "BRUTUS (ブルータス)..." 2025年8月22日

読書猫
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2025年8月22日
BRUTUS (ブルータス) 2025年 8/15号
上田岳弘「昨日だった気がする」、ジョージ・ソーンダーズ「ラブレター」(訳・岸本佐知子)が出色。 “「もう何もやらなくていい、何をやる必要もない、一昨日も昨日も今日も明日も明後日も1年後も10年後も100年後も1000年後も何も変わらない。いえ、1000年後は変わってます。きっともうこの世界に人類はいませんから、変わってはいます。僕が言いたいのはそういうことではありません。言いたいのは、これから先の日々は何も変わらないという感覚、この変わらない感じが強まることによって、人間は変わってしまう。ほら、ラヴェルの有名な曲があるでしょう? たー、たりらりらりらったららー、たらららりらりらー、らららーららりらりらりらーらー、ってやつ、ボレロ? でしたっけ、そう、ボレロだ。あの繰り返し繰り返しParanoidlyに続いて音がでかくなっていくあの曲、あんな感じで変わらなさが強まって行った果てに、決壊するように終わってしまうわけだ」“ (上田岳弘「昨日だった気がする」より) ”人間、ある程度の年齢になると、自分が手にできるものは”瞬間”だけなのだとわかってくる。たとえば今朝あの鹿のジャンプを見たことや、お前の母さんが生まれてくるのを見たときのことや、ダイニングのこのテーブルに座って赤ん坊(お前のことだ)が生まれたという電話がかかってくるのを待っていたときのことや、皆でポイント・ロボスにハイキングに行ったあの日のこと、アザラシがけたたましい声で鳴いていたこと、お前の妹のスカーフがひらひら舞って海に突き出た黒い岩に落ちたこと、優しいお前がモンテレーで代わりのスカーフを買ってやったこと、そのとき妹が本当にうれしそうだったこと。これらはすべて本当のものだ。それが(それだけが)人が自分のものにできるものだ。それ以外のものはすべて、そういうかけがえのない”瞬間”を傷つけるときだけ本当なのにすぎない。“ (ジョージ・ソーンダーズ「ラブレター」より)
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