
wingfeet
@wingfeet
2025年9月2日

火山のふもとで
松家仁之
読み終わった
抑制の効いた、美しい文章に胸を打たれる。北浅間の別荘「夏の家」で合宿生活しながら集中的に仕事をする建築事務所の新米メンバーである主人公の、師や先輩たちとの関わり、密かな恋愛模様が、緻密な建築の描写、鳥や樹木などの自然描写と絡み合いながら、ゆっくり淡々と進行していく。建築の話もかなりの程度出てくるが、建築というよりは、まるで人生や哲学について読んでいるような気にもさせられる。
劇的なことは何も起こらないけれど、ただこの作品世界の中にいつまでもとどまっていたいと思わせるような、稀有な読書体験だった。特に後半、先生の急病以降は、物語が終結に向かって加速していくのが分かるだけに、読み終えるのがひたすら惜しくなった。
描写や文体が好みなので、著者の別作品も手に取ってみたい。


