
てぃ
@titi__o4
2025年9月3日

黒い雨
井伏鱒二
読み終わった
「あそこに転がっている、あの弁当を敵が見てくれないかなあ。あの飯を見たら、敵はもう空襲に来なくてもいいと思うだろう。もうこれ以上の無駄ごと、止めにしてくれんかな。僕らの気持、わかってくれんかなあ」 (p.57)
僕は或る詩人の詩の句を思い出した。少年のころ雑誌か何かで見た詩ではないかと思う。
おお蛆虫よ、我が友よ……
もう一つ、こんなのを思い出した。
天よ、裂けよ。地は燃えよ。人は、死ね死ね。何という感激だ、何という壮観だ……
いまいましい言葉である。蛆虫が我が友だなんて、まるで人蝿が云うようなことを云ってる。馬鹿を云うにも程がある。八月六日の午前八時十五分、事実において、天は裂け、地は燃え、人は死んだ。
「許せないぞ。何が壮観だ、何が我が友だ」
僕は、はっきり口に出して云った。
荷物を川のなかへ放りこんでやろうかと思った。戦争はいやだ。勝敗はどちらでもいい。早く済みさえすればいい。いわゆる正義の戦争よりも不正義の平和の方がいい。 (p.204-205)




