
kei
@k3245
2025年9月6日

TVピープル (文春文庫)
村上春樹
読み終わった
村上春樹著「TVピープル」読了。
2025/9 4冊目
◎サマリ
①30歳だから分かる処女性の喪失
我らの時代のフォークロア―高度資本主義前史
②眠らないことが自らを覚醒させる?
眠り
◎書評
10代、20代頃、なんとなく面白いと感じていた村上春樹作品が、30歳の今、自分ごとになって自らを襲ってくる。
TVピープルも素晴らしい短編集だった。
特に自分が好きだった「我らの時代のフォークロア―高度資本主義前史」と「眠り」について触れたい。
①30歳だから分かる処女性の喪失
我らの時代のフォークロア―高度資本主義前史
60年代に学生時代を過ごした2人の男がイタリアのレストランで過去を懐かしむ。
処女性を尊び、婚姻前に身体を許さない彼女を持った男が最後に彼女と果たした不思議な誓約。
「すべてが終わったあとで、王様も家来たちもみんな腹を抱えておお笑いしました」
彼女と誓約を果たした後、男の脳裏に童話の変な終わり方がこびりつく。
それを聞いていた男は「おお笑いなんかできなかった」
不思議な物語ではあるものの、誰にでも起こる可能性のある、正確には60年代に起こる可能性があった物語に惹き込まれる。
実際、これは実話なのではないかとも思う。
なんとなく輝かしい過去を思い出させるノスタルジックな感覚とどす黒い一生心の奥底に閉まっておきたい感覚が共存する作品だった。
30歳の今読んだからこそこの感覚が持てたのだと思う。
②眠らないことが自らを覚醒させる
眠り
17日間眠れなくなった主婦が主人公の物語。
当たり前の日常の繰り返しとなっていたことに違和感を感じ、そして急に眠れなくなる。
眠れなくなることで自らの可能性が拡大していることを感じると同時に、死への感覚、これまで気づかなかった(気づく必要のなかった)様々な感覚を掴んでしまう。
眠れない=不幸せではないものの、人間として何かが崩れていく様子が軽快な文章で記される。
眠ることは当然に必要なことであるという常識を飛び越えて、村上春樹が描き出す狂気がたまらなく面白かった。
眠らないことで何か得られるのかもしれないが、そんな状況で得た何かは決して気分のいいものではないだろう。


