やぎねこ "杉森くんを殺すには" 2025年9月9日

杉森くんを殺すには
杉森くんを殺すには
長谷川まりる
心に傷を負った高校生が、他者や自己と向き合い、傷とともに生きていく方法を探す物語である。人間の心の不安定な部分が描かれているが、グロテスクすぎず、中学生でも安心して読める。会話も多く、ノリが良くて軽く読み進められる。だがその一方で、この物語の持つパワーは凄まじく、中高生だけでなく大人にもぜひ読んでほしいと思える一冊である。 一人に執着することは依存に陥る危うさを孕む。依存先を複数持つことは自立するということだ、という良子の言葉は、思春期の若者だけでなく大人の心にも響く。人が生きていくために必要なのは、たった一つの支えではなく、複数のつながりである。 加えてこの小説は、「客観」とは何かを根底から問い直す構造を持っている。ヒロの心の中にはリトル杉森くんやミトさん、さらには世間といった存在が現れ、ヒロをときに励まし、ときに責める。だが、それらはすべてヒロがつくりだしたものでしかない。杉森くんを殺す理由が次々に挙げられていくが、それもまたヒロの主観に過ぎず、読者は「完全な客観など存在しない」という感覚を、ヒロの言葉を通して体験することになる。 「人は生きてりゃ息をしつづける。だけど深呼吸は、なぜだか数えたくなってしまう。生きていることを、ことさら思いしらされるような気がして。」(98) 「なんだってわたしなんかを好きになったんだろう。好きになる要素なんてあった?きっとへんな人が好きなんだろうな。でなけりゃ、わたしを好きになるなんておかしい。まともじゃないと思う。だいぶ変わり者。だけどわたしは、まともじゃない人も、そんなにきらいじゃない。」(169, 170) 「いま、わたしは小さな谷に橋をかけた。 これから埋め立てていって、ちょろちょろした小川に変えちまおう。思いたったら、すぐとびこえられるくらいの。」(173)
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