
ショートストップ
@tabine_sora
2025年9月10日

美しい夏
パヴェーゼ,
河島英昭
読み終わった
「グイードは相変らず部屋じゅうを歩きまわっていた。あの大きな靴で、薄い床板を震わせた。みながいっせいに話し出した、しかしジーニアはふとアメーリアが黙っているのに気づいたーータバコの火が見えたーーするとロドリゲスも黙った。グィードの声だけが部屋いっぱいにあふれて何かを説明していた、しかしそれは彼女にわからなかった、なぜならソファーのほうに耳をそばだてていたから。夜の光がガラス窓から射しこんできた、それは雨に映える電光のようだった、そして屋根から雨をつたって、滴り、流れ、あふれてゆく雨水の音が聞こえた。ときおり、偶然に、雨の音と人声とがいっしょに途絶えることがあった、すると寒さがさらにつのってゆくような気がした。そういうときには、目をこらして、ジーニアは暗闇のなかにアメーリアのタバコの火をさがした」
「ふとした瞬間に、道の途中で、ジーニアは立ち止まることがあった。夏の夜の香りが不意に漂ってきて、さまざまな色彩が、物音が、結感の木立ちの影が、よみがえってくるからだ。ぬかるみや雪のなかでもそのことを思い、胸をつまらせて街角に立ち止まった。《きっと来るわよ、季節はめぐっているんですもの》しかしいまのように独りぼっちだと、それはありえないことのごとくに思えた。《あたしは年をとったんだわ、それだけのことよ。美しい盛りは終ったのね》」
