
読書猫
@bookcat
2025年9月10日

PRIZE-プライズー
村山由佳
読み終わった
(本文抜粋)
“物書きなんて、と、背表紙の列を眺めながら思った。本を読まない人間からすれば、この世に存在しないも同然だ。“
”「ねえ、作家にとって何がいちばん怖いかわかる? 周りにいる誰も、ほんとうのことを言わなくなることだよ。書くものが適当に面白くて、しかも売れてたら、誰がわざわざ嫌われるようなこと言いたがる? 私、裸の王様だけはイヤ。井の中の蛙はもっとイヤ。嗤われてるのに自分だけ気づいてないなんて、死んだほうがまし。だからお願い、約束して。他の誰が知らんぷりをして黙ってても、千紘ちゃんだけは私にほんとうのことを言ってくれるって」“
”「そういう流行りの題材を滔々と語るのって小説のやることかしら。ドキュメンタリーのほうがよっぽど伝わるんじゃない? 傷ついたり苦しんだりしている人物にいかにも寄り添っているふうな視点のとり方をなさってるわよね。それをテレビドラマのようだと評する委員もいたけれど、私に言わせればその言い方はテレビドラマに失礼だわ。今時のドラマはもっと洗練されている。だいたい、辛くて悲しい話を書くのに、作者が先に泣き出してどうするの。登場人物それぞれを冷徹に突き放すくらいでなくてどうするの。寄り添うどころか行き過ぎて同化してしまうから、会話も地の文も説教くさく響くのよ。あれこれ理由づけしないと人の不幸ひとつ描けないんだったら、それはあなたの筆が足りてないだけ」“


