
自分
@Me_me
2025年9月11日

異邦人
カミュ
読み終わった
肌寒い湿気た風に、ほんの少しの塩の匂い。『異邦人』を読んでまず思い浮かんだのは、そんな感触だった。乾いているのに湿っている。心地よさと不快さが同居する、矛盾した空気。その風の中でページをめくっているような読書体験だった。
主人公ムルソーは、無関心な人間に見える。母の死に涙せず、恋人に愛を告げられても「意味がない」と答え、人を撃った理由さえ「太陽のせい」だと言う。
けれど本当にそうなのだろうか。むしろ彼は、蝶の羽をむしり取ってしまう子供のように、残酷なほど純粋で、眩しいほど素直な心を持っているだけなのかもしれない。飾らず、気取らない。彼はただ、世界をそのまま受け入れているのだ。
だが社会はそれを許さない。裁判で裁かれたのは殺人そのものより、「母の死に涙しなかったこと」だった。常識や道徳という名の荒波が彼を押し流そうとする。その姿に私はぞっとした。そして、なぜか少しほっともした。
なぜなら最後にムルソーは、「世界のやさしい無関心を受け入れる」と語るからだ。そこにあったのは絶望ではなく、静かな救いだった。意味なんてなくてもいい。ただ海辺に立ち、潮風を浴びながら呼吸している。それだけで十分なのだと教えられた気がした。