. "百年の孤独" 2025年9月17日

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@azzurro
2025年9月17日
百年の孤独
百年の孤独
ガブリエル・ガルシア=マルケス,
鼓直
これはすごい。最後の数ページは鳥肌もの。 かなり難しい作品と噂を聞いていて、身構えて読み始めたけど、別段複雑怪奇なわけじゃなかった。エンタメ小説。 冒頭の150ページくらいはちょっと退屈してたけど、200ページに差し掛かるあたりから結構楽しく読んでいた。 ファンタジー要素が度々あるけど、本質はかなり写実的な人間ドラマ。 ところどころ、先の展開をネタバレみたいに突然吐き出してくるんだけど、なにがどうしてそこに至るのかは読み続けないと全然わからなくて、該当部分の時間軸まで読み進めた時に漸く「あの時のアレ、そういうことか〜」と思い出す感じが楽しい。伏線を敷いてるとかじゃなくて、問題文も計算式もすっ飛ばして、突然答えだけぶん投げてくるようなかんじがおもしろい。P350の1行目とか「やっときたー!」ってなる。 【以下ネタバレ含む】 ・物静かで知性的だったアウレリャノが為政者からの抑圧を受け、自由を守るために武器を取り戦争に行き、かつて自分たちが敵に見出した狂気を抱えて帰ってきて、停戦後ブエンディアの生家に戻ってからは本来の性質を取り戻しながらも戦争中にできた精神的な傷を癒せずにいる姿。 ・どこまでもいつまでも母親であるウルスラ。ステレオタイプの母親像をセメントで塗りたくって固めたかのような人。完全に群れのボス。 ・良くも悪くも執念深く、人も気持ちもなにもかも忘れることができず、他人も自分自身も拒絶して生きるアラマンタ。 ・結婚して他人との生活が始まるというのに、実家の習わしとルールを絶対に捨てたくないという図々しさでブエンディアを掻き乱すフェルナンダ。 ・幸薄すぎてかわいそかわいいピエトロ・クレスピ。それはそれとして何も自殺するほどか?とも思う。 ・クレスピの肉親も、実話のフィルムを紛い物扱いされた挙句、劇場を荒らされてかわいそう。一族揃って可哀想キャラなのはちょっと面白い。 みたいな。 登場人物が多すぎて書いてるとキリがないけど、現代日本でもよく聞く話。つまり至って普通の、よくある平凡な家族の、普通の日常の1世紀分がかいつまんで書かれた物語。 ただ、そもそもの発端であるメルキアデスとホセ・アルカディオ・ブエンディア、あと小町娘のレメディオスあたりは様子がおかしい。 ホセ・アルカディオ・ブエンディアの死ぬシーンがあまりにも幻想的で美しい。(p221) ホセ・アルカディオの死ぬシーンもかなり印象的だった。勘当した身でありながらも、唯一息子の死による血の道筋に気づいて真っ先に駆け寄るウルスラ。やっぱりあまりにもお母さん。 電話の発明を“現実の境界が果たしてどこにあるのか、誰にも定かではなくなった”と表現。比喩としてカッコ良すぎ。 p485ヘリネルド・マルケス大佐の葬列を見送るウルスラがヘリネルドへ別れの言葉を贈るシーンはかなり印象深い。 読んでいると「このキャラクターの名前久々に出てきたな。」とか「これについてのエピソードは随分前の時間軸で聞いて以来だな。」みたいなことが多々あったけど、いずれの出来事も言われてみれば思い出せるくらいには覚えてるという不思議な感覚を繰り返し体験する。後でまたストーリーに噛んでくる人物や事象は印象に残るような描かれ方をしている証拠なんだと思うと、作者の手腕に鳥肌が立つ。 「わたしよりよく心得ていると思うが、戦争裁判なんてみんな猿芝居さ。」 「軍人たちを憎みすぎたために、彼らをあまり激しく攻撃したために、そして彼らのことを考えすぎたために、連中とまったく同じ人間になってしまったことなんだ。これほどの自己犠牲に値する理想なんて、この世にないと思うんだがね。」 架空の人間の見せかけの不幸に流す涙などあるものか、自分たちの苦労だけでたくさんだ。
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