無重力くらげ "殺人事件に巻き込まれて走って..." 2025年9月19日

殺人事件に巻き込まれて走っている場合ではないメロス
職場でこの本を読んでいる時、年配の社員さんに「休憩中に読書なんて大したもんだ」と感心したように言われた。顰めっ面で読んでいたので、難しい本を読んでいると思われたのかもしれない。実際には、必死で笑うのを我慢してただけだ。職場で読んではいけない本だった。 ご存知、太宰治の『走れメロス』を元にした作品で、内容はタイトルの通り。原作はけっこう感動的な話だが、この小説は終始コメディ路線を突っ走っている。登場人物の名前すら「アヤシス」、「ミタンデス」、挙げ句の果てには「ダボクデシス」。もう一人初見で吹き出してしまった名前のキャラクターがいるが、ネタバレになってしまうので書かないでおく。大切な叙述トリックの要素なので。 メロスはインテリジェントなタイプではないため、ちょこちょこ推理を間違える。その度に罪のない人々が正義の拳をお見舞いされ、過ちに気づいたメロスが自分を殴り返せと謝罪する天丼がおもしろかった。彼は基本的に正義の心とフィジカルで喋ったり動いたりしているので、発言も支離滅裂になることがある。好きなのは以下のセリフ。自殺しそうな男を引き止める際のメロスの言葉だ。 『「私は本気だ。死のうとするならば、生かしておかぬぞ」』 最初から最後までふざけ通している作品だが、中には感動して心がじーんとする文章もあった。特に溺死体の事件を解決した後の、メロスが疲れ果て、諦めかけるシーンはよかった。読み終わった後に確認したら、私が感動した文章はすべて太宰治のものだった。 肩肘を張らずに読めるミステリー小説で、仕事の休憩時間を楽しく過ごすことができた。タイトルを見てピンときたら、ぜひ読んでみてほしい。
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