
うえの
@uen0
2025年9月20日

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい
大前粟生
読み終わった
自分の加害性や弱さを抱え込みながら、優しくありたい、優しい世界であってほしいと祈りつづけるような物語。
映画がすごく好きで、いつか原作も読もうと思ってたんですが、忘れており。近所の個人経営の本屋さんで見つけて買いました。映画も小説もどちらも良い作品です。
印象に残った言葉-------------
軽薄さや無関心と間違えられてしまうようなやさしさ。
恋愛や男女の話があまりされない。そういう話、楽しいけど、疲れてしまうから。消費したり消費されたりしているって、自覚してしまうときがあるから。
でも、安心できるところの方がめずらしいじゃん。世のなか。
打たれ弱くて、いいじゃん。打たれ弱いの、悪いことじゃないのに。撃たれ弱いひとを打つ方が悪いんじゃん。
こうやって白城のなかで、ひどいことが自然法則みたいになってるのがつらい。
ごめん
ラインを送ろうとして、でもごめんとかいって楽になるのは自分じゃないかと七森は思った。ごめんということばを送って、こっちこそごめん、を引き出す?それで白城も楽になる?その想定をする傲慢さによけいしんどくなった。考え過ぎだ、と自分でわかっているけれど、いまは沈みたい。
僕も最低で、この最低を抱えて生きていくことに酔えたらどんなに楽だろ。注意、したい。怒れるようになりたい。でも、こわいんだ、僕はただ、他のひとたちにも、自分の言動でひとが傷ついているかもしれないって気づいてほしい。気づいて、そこからはみんな仲良く、健康に生きてくれたらいいのにな。いまの僕みたいに、しんどくなってほしくない。
嫌なことをいってくるやつはもっと嫌なやつであってくれ
どんなことばも、社会から発せられたものだ。
やさしすぎるんだよ、と白城は思う。傷ついていく七森と麦戸ちゃんたちを、やさしさから自由にしたい白城は、ぬいぐるみとしゃべらない。
お互いひとりでいるような感じでだれかといたいとき
たかが結婚で私のこと変えられると思うな
心に鎧を装着して身構えてください
彼女は他サークルや社会で起こっているセクシャルハラスメントに気づいていないのではなく、きちんと「ひどいこと」と認識した上で、自分の視界から外している。たとえ自分自身が被害にあっていても、「子供みたい」な七森や麦戸と異なり、つらいと言わないし、認めない。加害者にならないよう努めている七森に対し、被害者でいたくない白城は対照的だ。ジェンダー問題に限らず、声を上げても無駄だと達観したり強者の理屈を内面化したりして、被害者や立場の弱い者がどうにか現実に順応することは、悲しいことにそんなに珍しいことではない。これは今まで、多くのフィクションが金や性に汚い大人と純粋な子どもの闘いを描いてきた弊害でもあると、私は思う。成熟することは、理不尽であること、そしてそれに従うことを指すようになってしまったからだ。
血のつながった家族であっても他者とみなし、そして他者を操作できない存在として認め、放って置けないけどそっと見守っている。相手の世界を侵害せずに関係し合うことの例を見せてくれる。
「ふつうにひどい」現実の中で身を躱しながら暮らしていて、痛いとか苦しいとか、助けを求める言葉すら忘れてしまいそうな白城をやさしくない人間にデフォルメして描写することもできるのに、彼女の世界を侵害せずに解きほぐして書かれている。大前さんの書く厚い包帯のような物語の数々が、七森や麦戸に共感するひとはもちろん、白城のようなひとにも届いて、その放っておかれた傷をもふんわりと覆えばいい。




