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@cocoa007
2025年9月21日

有限と微小のパン
森博嗣
読み終わった
生物にとって一番重要なのは、次世代に命を繋いでいくこと。よく聞く言葉だ。だから子殺しは最大のタブーになる。
でも大切なのは命ではなく、遺伝子の中の情報、それだけなのだとしたら。
どんな形であれ、「情報を未来に運ぶ」ことが重要なのだとしたら、あらゆる情報を誰よりも速く大量に収集し解析し、残していける四季は、人類全部の命よりも価値がある、ということになる。
情報さえ運べるのなら、「子殺しは罪」という価値観も無意味になる。それは、命を繋ぐことしかできない生物にとっての、原始的なタブーなのだから。
…というようなことを考えさせられる内容だった。心情的には抵抗感を覚えるが…。
この本の登場人物は、体を置き忘れている人が多い。「部屋が全部バーチャルだと何が困るの?本がないと困る?本は電子でいいでしょ?」という島田さんのセリフとか。
部屋になくて困るもの、最初に出てくるのは本じゃないよ…と思ってしまう。
この小説全体に感じる体の希薄さと四季や犀川の持つ特殊な価値観は、底で繋がっているような気がする。
でも、犀川先生を現実に引き止めるのは煙草なのである。なくてもいい、なんなら有害な煙草を吸い続けるのは非合理的で、一見先生っぽくないような行動だが、煙草の中毒性だけが彼に体を捨てさせないのである。
大掛かりなトリックももちろん興味深かったが、こういうミステリー以外の思考要素がとても面白かった。

