
ぱち
@suwa_deer
2025年9月23日

夏物語
川上未映子
読み終わった
読書会
読書会課題本
読書会の課題本で読了。
川上未映子さんの長編を読むのは初めて。
二部構成で、第一部は芥川賞受賞作「乳と卵」を書き直したもの。(ほぼ同じ内容らしい)
第二部は実質「乳と卵」の続編に当たる。
一部と二部で内容もそうだけど文章の印象もだいぶ異なる。
二部の文章は主人公・夏子が目にした風景を描写した文や、そこに夢みたいなものが入り混じった文章が多い。
会話文はいいのだけども、どうも地の文章が肌に合わないのか入り込めない感じがあった。
それと本筋とは関係のない小さな描写(というか設定?)につまずくことが多かった。
【つまずいた点】
・緑子(夏子の姪)が、巻子(夏子の姉)との関係がこじれて喋らなくなるという設定。本文では母親以外、学校ではしゃべると書いてある。が、夏子ともしゃべらず筆談でやりとりしている。母親と喋らない理由は分かるが、なぜ夏子とも喋らないのかが分からなかった。
→読書会でこの点について話したところ、夏子のこともほぼ母親と同じ様な存在と見られているか、夏子を通じて巻子に自分が話したことが伝わってしまうことを危惧したのではないか?とコメントをもらい腑に落ちた。
・夏子と緑子が遊園地に行く場面。観覧車に乗ることになるのだが、ここでの夏子が高所恐怖症の気が少しあるという設定。その気があると書かれながら特に何事もなく普通に観覧車に乗ってしまうので何の意図があってこの設定を作ったのかが分からない。
→この理由については結局分からなかったが、読書会で第二部の終盤でも「観覧車」が出てくるので「観覧車」には何か重要なモチーフがあるのでは?というコメントがありハッとさせられた。
【印象深かった登場人物】
登場人物としては主人公の夏子よりも、仙川さんと善さんの2人が気になる存在だった。
・仙川さん
仕事へのこだわり様が強い。(夏子が)子どもを持つことへの強い否定は何なのか?明確に書かれてはいないけど同性愛的な面を持っていたりするのかなと少し想像した。作品を世界に残すことが仙川さんの生き甲斐になってるのかなと。作者はなぜ仙川さんを殺してしまったのか?その意図が分からなかった。仙川さんが亡くなることによって夏子の作品作りに変化が起きるとかならまだ分かるけど、そういう話にはなっていない。物語的意味は何なのか?マジョリティ側の人たちが夏子から離れていくということを意図してのなら分からなくはないけれども。
・善さん
言ってることは分かる。
分かるというのは、子どもを産むべきではない(反出生主義)ということではなくて、世界には痛みがあるということ。
痛みに対する向き合い方はいろいろあると思う。
現実的に考えるなら少しでも痛みを減らす社会を作る様にがんばるだとか、物語的に考えるなら暴力を振るった相手に復讐してやろうとか。
でも善さんは痛みをただ受け入れてる人の様に見える。
闘ったり逃げたりする気力が湧かないほど傷ついてる人なんだろうと思うけれども、じゃあ善さんにとっての救いって何なんだろうと考えてしまう。活動(当事者から考える会の)を続けることで「痛み」を想起することから離れられなくなってしまってはないか?善さんが活動を続ける理由も見えない。読書会で指摘があったけどもそうした負のエネルギーを元にして善さんは生きているのではないかと。「善」という名前にも意図するものがあるのだろうとは思うがまだ答えは出ない。
気になった点をつらつら書いたけども、面白くなかったわけではない。いろんな現代的な要素が入っていて面白く読み応えのある作品ではある。
読書会の参加者さんが言っていたが川上未映子さんの他の著作とはちょっと異なる読み心地だったらしい。
他の長編もチャレンジしたいと思うが、『夏物語』関連でエッセイ本『きみは赤ちゃん』はとりあえず近いうちに読んでおきたい。
