
いなだ易
@penpenbros
2025年9月23日

YABUNONAKA-ヤブノナカー
金原ひとみ
読み終わった
「かつては乖離こそが人を救った。乖離だけが今を生き抜く術であったと言っても過言ではない。しかし現代では乖離は通用しない。多様はいいけど乖離はだめ、そういう理屈が採用され始めている。」
小説業界の性搾取の告発にまつわる人間模様ーー加害者、被害者、編集者、作家、同世代、下世代、、見えている世界の断絶を克明に描いた小説なのだが、全編を通じて文学の話でもある。そこが一番痛切だ。時代と文学の話。
社会的な動物として終わりゆく編集者の木戸は男性中心の"旧文学"おじさんとして書かれているが、その語り口や世界の認識が、前世代の「純文学」そのものなの、メタくて皮肉効いててずっとウケてた。自分が批判の対象であり、具体的にも女を傷つけてきたということには気づいているが、何がどう悪かったのか何もわからないままぼんやり死んでいくおじさん。
でも、実際に先に生きられなくなるのが、「乖離」して生き延びることができなくなった女性作家の長岡であることもすごくすごくわかる。これまでずっと、乖離は生き延びる術だったから。ある人々にとって、乖離こそが文学だから。
世代の違い。倫理や価値の移り変わり。私は年齢的に、長岡・木戸と子どもらの中間で、どっちの感覚もわかるなぁ。
「私たちにとってはモテることなんかよりも、自然体であることの方がずっと重要で、死活問題なのだ。」ほんとにね。
でも同時に、現実にマジになんない、乖離的な目線も生きる楽しみの大部分を占めると思うんだけど古いのだろうか?(乖離せずに労働やってられますか?)
村田沙耶香『世界99』と通底する意識を感じ、続けて読んで良かった。それぞれの世界①,世界②……を生きてる人同士が、現実には顔を突き合わせている、という。


