
amy
@note_1581
2025年9月24日

給水塔から見た虹は
窪美澄
読み終わった
感想
窪美澄さんの新作小説を読んだ。
いま、このときに、こういう小説を書いてくれる作家の存在が本当にうれしい。
この物語は、白か黒か、善か悪か、という単純な線引きを拒む。
そもそも世界には、ひとりの人間の中にも、どちらの要素も共存している。
環境や経済状況、心身の健康によって、その人が見せる顔はいかようにも変わっていく。
「知ること」は恐ろしい。知ってしまえば、知らなかったころには戻れないからだ。
けれど、知らないままでは生きていけない世界に、私たちはもう立っている。
物語の中で、差別的な視座を無意識に抱え込んでしまっていた主人公は、自分がかつて感じた心細さを思い起こし、体調を崩したベトナムルーツのクラスメイトに手を差し伸べる。
その瞬間、人と人との間にある硬い殻を破るには、想像力や共感、そして「もし自分だったら」と考えることが欠かせないのだと気づかされる。
主人公も、彼女を取り巻く人々も、少しずつ変わっていく。もちろん現実の厳しさが一気に好転するわけではない。
それでも勇気をもって手を差し出すこと、差し伸べられた手を受け取ること。
その誠実さに満ちた物語だった。


