勝村巌 "呪文の言語学" 2025年9月27日

勝村巌
@katsumura
2025年9月27日
呪文の言語学
ルーマニア在住の言語学者によるルーマニアの(主に)魔女が使う呪文についての研究所。 西欧の魔女と言えば魔女狩りですが、魔女狩りで魔女が駆逐されてしまったのは西側がメインで東欧にはまだ魔女が生き生きと生きており、生活の中に根ざしているのだという。 これは東欧のキリスト教がギリシア正教だったため、西側諸国のカトリックとは土着の宗教との関連の仕方が異なっていたからなのだという。そういうことなんかも初耳だったので大変面白く読んだ。 著者が言語学者なので、ルーマニアに残る呪文を文献調査して、その構造解析をするというのが切り口で、呪文の中に意味の通じる平文と、意味不明の暗号のような部分がある、というような解き方をしていて面白い。 つまり、アブラカダブラみたいな言葉の効能、みたいな音節だけの部分はなぜ存在するのか、という点を考えるところは面白かった。 ハリーポッターの「エクスペクト・パトローナム」はラテン語では平文で意味が通じる、とか「痛いの痛いの飛んでけ〜」の主語はなんなのかとか、アブラカダブラには亜種がいろいろあり、国によっては回文になっている地域もあるとか、そういう豆知識的なところも面白かった。 パスタードの呪文を必死で覚えた10代があったわけだが、あれなども平文と暗号文の組み合わせだったと言える。あれは作者の萩原一至が適当にヘビメタとか聴きながら組み合わせで作ったものなんだろうが、雰囲気や説得力は出ていたので、意識はしていなかったが、本物に近い言語的な構造に近づけていたのだろう。 ルーマニアという国と、著者の研究対象であるロマ(古くはジプシーと呼ばれた放浪の民)の関わりなどにも触れられて、そこも面白かった。 魔法というものが、テレビアニメのように派手なものではなく、腹痛が治るとか、日照り続きの土地に雨が降るとか、不倫して駆け落ちした元旦那の相手が不幸になるとか、そういうものが主で偶然起こりうる事象の確率が上がる、というものなのが生活に根ざしている点だと思った。 日本も極東の島国として相当独特の文化を持っていると思うが、ルーマニアなども大変に個性的な国なのだろうな、ということが実感できた。いつか行ってみたい。
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